まず、産業用ドローンの市場が、本当に2020年に1,000億円に達するのか。こうした新しい市場は、予測に反し急速にしぼんでいくことがある。比較対象になるかどうかわからないが、3Dテレビなどはその最たる例だ。ただ、市場規模に関してはこの逆も考えられ、ひょっとしたら2020年には1,500億円、2,000億円になっている可能性もある。

次に法整備の問題。ドローンによる事故続発を受け、国は飛行区域を制限している。送電鉄塔に沿って飛行していくにしても、この飛行制限区域にひっかかるため、それ以上ドローンが進めない状況もありえる。ゼンリン上席執行役員 藤沢秀幸氏によると「2019年のサービスイン後、国とともに実証実験を繰り返し、『これなら安全』と国に認めてもらうのが肝要。そうすれば、規制緩和に舵が向く」とその見通しを語るが……。

続いて、周辺住民とのコミットメントだろう。ドローンは建物やクルマ、人のうえを30m以上離して飛ばなくてはならないという国の規制があるとはいえ、自宅の上空を無線制御の機器が飛び回るのをよしとはしない方が多いのではないだろうか。神経質な方ならば、飛行音も気になるはずだ。

セキュリティにも十分な配慮が必要だ。送電鉄塔や電力施設はテロの対象になりかねない。それをデータ化するのだから、悪意の第三者に攻撃される可能性がある。ここは万全の対策が必要になるだろう。

最悪のシナリオのひとつは墜落事故

東京電力が管理する某所の送電鉄塔群

このほかにも、いろいろと課題があるとは思っているが、最悪のシナリオのひとつが以下だ。この構想では送電鉄塔を道しるべに、変電所などをポートにすると前述した。30m以上離れているとはいえ、墜落したときにもし送電線にダメージを与えしまったら、ポートへの着陸時にもし重要機器を破損してしまったら……停電の原因になりかねない。ゼンリンの藤沢氏も、東電HD 新成長タスクフォース事務局長の山口浩一氏も「そうならないための3Dマップの導入」だと説明する。また山口氏は、「異常が生じても、安全にドローンを墜落させる仕組みがある」とする。

とはいえ、事故は何が原因で起こるのかわからない。以前、柏崎刈羽原発を見学させていただいた際、幹部の方が「あらゆる可能性を考えて準備している」と話していたのを思い出した。そのくらいの見通しで準備していただきたい。

と、少々辛辣になってしまったが、この構想に決して反対しているわけではない。クリアしなくてならない課題が多いと感じたことで、なぜか“茨の道”という言葉を想像してしまったためだ。ぜひとも安全な“空の道”を築いてほしいものだ。