今回のIBM InterConnect 2017では、Linux FoundationのHyperledger Fabric Version1.0をベースにした、エンタープライズ対応ブロックチェーンサービスの提供を開始すると発表した。IBMは、仮想通貨でのブロックチェーンの活用は視野には入れておらず、あくまでもビジネス用途での活用に絞り込む。会期中には、ダイヤモンドの鑑定や、エネルギー分野での活用など、様々な業界でブロックチェーンの活用事例を紹介。日本の企業では、三菱東京UFJ銀行が、外部委託業者などのビジネスパートナーとの契約の管理などにIBM Cloudを活用。ここにブロックチェーン技術を応用していることが示された。

三菱東京UFJ銀行の村林聡専務取締役は、「現在は実証実験中だが、時間やコストの削減、サプライヤーとのやり取りにおいて合理化が図れている。ブこのほかにも、ロックチェーン技術を活用した実証実験を並行して進めており、幅広い領域にブロックチェーンを活用したい」と述べた。

IBMでは、「IBM Blockchain on Bluemix High Security Business Network(HSBN)」を提供。セキュアなエリアにチェーンそのものを格納することで、「もっともハッキングされにくい環境を実現している。セキュアにチェーンを利用できる技術を提供しているのはIBMだけ」と三澤取締役専務執行役員は自信をみせる。

IBMでは、すでに全世界で400件以上のプロックチェーンに関するプロジェクトを開始しており、ブロックチェーンを活用したクラウド事業の拡大にも弾みをつける考えだ。

ロメッティ会長兼社長兼CEOは、「IBMのビジネスの17%がクラウドになっている」とし、今後のクラウド事業拡大に意欲を見せる。

IBM全体では、19四半期連続での減収が続くが、最新四半期では増益を達成。今後のクラウドシフトは、IBMの経営体質の転換に大きく影響することになるのは明らかだ。

経営体質の転換を急ぐIBMが、新たな体制を明確にしたのも、今回の「IBM InterConnect 2017」の大きなポイントだ。

IBMは、2016年10月に、IaaSであるSoftLayerと、プライベートクラウドであるBlueBoxを、PaaSであるBluemixに統合。クラウドビジネスを、IBM Bluemixブランドに統一した。

 さらに、12月には、これまでWatson事業を担当していたデビッド・ケニーシニアバイスプレジデントが、Watson事業とともに、Bluemix事業も統括する体制へと移行。IBMの従来型ビジネスを継続しながら、新たなクラウド環境への取り組みを加速する役割を担うハイブリットグラウド担当のアーヴィン・クリシュナシニアバイスプレジデントとの2人体制で、IBM全体の事業を推進する形を整えた。とくに、ケニーシニアバイスプレジデントは、IBMが買収したThe Weather CompanyのCEOを務めていた人物で、同氏を経営幹部に登用するとともに、IBMの将来の成長を描く新たな事業の同氏の管轄下においた体制は、まさに新たなIBMの姿を感じさせるものといえる。

Watson事業とともに、Bluemix事業も統括するデビッド・ケニーシニアバイスプレジデント(中央)

前任のサミュエル・J・パルミサーノCEOが60歳で退いたように、IBMの歴代CEOの退任は60歳というのが不文律。まもなく60歳を迎えるロメッティ会長兼社長兼CEOが、次期体制を視野に入れた動きを見せ始めるのは当然のことだといえよう。基調講演のなかでは、セールスフォース・ドットコムのベニオフ会長兼CEOと、お互いの社会貢献活動について、その成果を評価しあったり、IT分野における男女間のギャップを解消することを目指し、若い女性に対して、コンピュータプログラムを教える機会を創出する活動を行っているGirls Who Codeのラシュマ・サウジャーニCEOをゲストに呼び、ロメッティ会長兼社長兼CEOが、社会貢献活動に強い関心を寄せていることを改めて示してみせたのも、同氏の退任後の布石と見えなくもない。