産業技術総合研究所(産総研)は3月23日、工業炉や焼却炉、エンジンなどの排熱から発電できる空冷式のポータブル熱電発電装置を開発したと発表した。同装置は冷却水を用いず発電でき、複雑な設置工事も必要としない。産総研無機機能材料研究部門 機能調和材料グループ 舟橋良次上級主任研究員らの研究グループが開発した。

産総研ではこれまでに、800℃の高温、空気中でも安定で、変換効率の高いp型熱電材料であるカルシウム・コバルト酸化物の発見や、n型熱電材料であるカルシウム・マンガン酸化物の製造技術の開発を行ってきた。さらに、これらの酸化物熱電材料を用いた熱電モジュールを開発し、工業炉や焼却炉の排熱で発電できる水冷式熱電発電装置を開発してきた。しかし、同装置の試験を行っていくうえで、冷却水を使わない発電装置の要望が産業界から出ていた。

そこで今回、空冷でも高出力で発電できる熱電発電装置の開発に向けて、酸化物熱電モジュールの発電出力の向上、高温耐久性の改善、高出力発電を可能にする空冷技術の開発を行った。空冷技術は、作動液体の蒸発潜熱を利用するヒートパイプを用いることで、作動液体の蒸発により、熱電モジュールを効率良く冷却できるというもの。ヒートパイプ、放熱フィン、空冷ファンで冷却用ラジエーターを構成し、熱電モジュールと組み合わせて、空冷式熱電発電装置を実現した。空冷ファンは外部の電源や電池などは不要。

同装置は加熱温度が500℃の場合、2.3Wを出力可能。同じ熱電モジュールの水冷時の出力は同じ条件では2.8Wとなるため、水冷式の80%の発電出力を持つといえる。なお、加熱温度を600℃とすれば最高で3Wの発電出力が得られるという。

同研究グループは今後、今回開発した発電装置の実証試験を行い、工業炉や焼却炉からの排熱回収用や非常用電源として、2年以内に実用化していきたい考えだ。

左: ポータブル空冷式熱電発電装置と熱電モジュール 右:熱電発電装置で動作する電子機器の例 (出所:産総研Webサイト)