Windows 10無償アップグレードの対象外だったWindows Vistaは、4月11日 (日本時間12日) で延長サポートフェーズの終了に至る。多くの利用者はWindows 7ないしWindows 10へ移行済みである可能性が高いため、Windows XPのサポート終了時とは異なり、大きな混乱を巻き起こすことはないだろう。今後Windows Vistaが表舞台に出ることはないため、少し振り返ってみたい。

間もなくサポートが完全終了するWindows Vista

筆者がWindows Vistaで思い出すのは、リリースに至るまでの混乱である。Microsoftは独立した形で「Blackcomb」の開発に着手していたが、2001年当時はWindows XPの後継OSに位置付けられていた。だが、開発は遅々として進まずにキャンセルしたかのような背景で生まれた「Longhorn」だが、先進的な技術の実装にチャレンジし、結果だけみればオブジェクト指向OSとしてWindows 3.1とWindows 95の間に開発が進められていた「Cairo」と同じ轍を踏んでしまった。

当時のPCでは動かすのも一苦労だったLonghorn (開発コード名)

Longhornプロジェクトをリセットして再開発に取り組んだ結果、世に登場したのがWindows Vistaである。誤解を恐れずに述べればWindows Vistaは「最終的に良いOS」だった。その理由は後回しにして、普及に至らなかった理由を先に述べたい。

Windows Vistaでは、OSが安定するシステム要件として「Windows Vista Capable」「Windows Vista Premium Ready」の2種類を用意したが、それでも当時のミドルレンジクラスPCですら少々荷が重かった。さらにWindows XPは2004年9月にリリースしたService Pack 2で完成に至り、ハードウェアの進化が鈍化する影響も相まって、利用者はPCの買い替えが欠かせなかったのである。これがWindows Vistaのスタートダッシュに失敗した大きな要因となった。

Windows Vistaは2008年2月のService Pack 1、2009年4月のService Pack 2によって、パフォーマンスの問題を大幅に改善した。その後登場するWindows 7とWindows Vista Service Pack 2を比較しても、機能面はともかく体感的なパフォーマンス差は感じないほどだった。また、Windows Vistaは64ビット版を各エディションに提供した初めてもOSでもある。2005年の時点でWindows XPを64ビット化した「Windows XP Professional x64 Edition」も存在したが、アプリケーションの互換性問題から筆者は多用しなかった。Windows VistaはWOW64 (Windows 32-bit On Windows 64-bit) との親和性も高く、振り返ると現在の64ビット版Windows普及に至る大きなターニングポイントだったのだ。このような理由から筆者はWindows Vistaを高く評価している。

だが、Windows Vistaは欠点も少なくなかった。すべては語りきれないが、ぜひ述べておきたいのがエディションの複雑さだ。Windows Vistaは、Starter / Home Basic / Home Premium / Business / Enterprise / Ultimateと6種類のエディションが存在した。新興国市場向けのStarter、ボリュームライセンス専用のEnterpriseを除外しても4種類の選択肢が残ってしまう。当時の筆者は機能的な差異を踏まえて「全部入りのUltimate一択」を唱えていた。その理由の一つが「Windows Ultimate Extars」。Ultimateエディション専用機能として、「BitLockerとEFS拡張機能」やポーカーゲームの「Hold 'Em」、動画やGIFアニメーションを背景画像として指定可能にする「Windows DreamScene」などいくつかのツールが公開された。しかし、正直なところを言うと期待外れだった。

ポーカーゲーム「Hold ’Em」。筆者はプレイした記憶がない

もう一つの欠点が、サブディスプレイを管理する「Windows SideShow」である。当時の携帯電話 (もちろんスマホではない) が備えるサブディスプレイをPCでも同じように利用する機能だ。ロジック的には対応デバイスとUSBで接続し、対応するアプリケーションからXML形式で情報を配信するというものだ。当時ASUSは「W5Fe」という対応ノートPCをリリースし、一部のマザーボードもWindows SideShow用アクセサリーがあったように記憶しているが、結局どちらも手にすることはなく、本機能を活用する場面は皆無だった。

コントロールパネルに並ぶ「Windows SideShow」

「眺望」という意味を持つWindows Vistaだが、セキュリティやカーネルなどWindows 10に続くファンダメンタルな部分はこの時点で一つの完成に至っている。ここから改良を重ねて、Windows 7、(迷走しつつも) Windows 8.x、Windows 10と続いてきた。残り1カ月でその役目を終えるWindows Vistaだが、当時を知らない方にもその存在が大きかったことを知ってもらいたい。

阿久津良和(Cactus)