米国は、ダークマターを検出するための次世代実験施設を建設する。宇宙の全質量・エネルギーの約27%を占めるとされる目に見えない未確認の重力源ダークマター(暗黒物質)の候補物質の中で、電磁気的な相互作用がほとんど起きないために電磁波による観測ができないとされる未発見粒子WIMP(weakly interacting massive particles)の検出をめざす。

米国エネルギー省(DOE)と米国立科学財団(NSF)が選定したプロジェクトで、世界38以上の研究機関が参加する。実験設備は、サウスダコタ州のスタンフォード地下研究施設(SURF)の地下約1.6kmに建設。完成予定は2020年。

大型の液体キセノン容器に入射したダークマター粒子がキセノン原子と衝突するときの発光を光電子増倍管で検出する(出所:バークレー研究所)

WIMPを検出するLUX-ZEPLIN(LZ)実験のための施設を地中深くに建設する。LZ実験の前身である大型地下キセノン実験(LUX: Large Underground Xenon)では、350kgの液体キセノンを詰めた容器を地下坑道に設置し、ダークマター粒子が液体キセノンに衝突したときに起こると予想される微弱な発光を観測しようとしたが、検出はできなかった。LZ実験では、LUX実験の跡地を利用し、10トン級の超高純度液体キセノンを用いることで検出感度をLUX実験から50倍以上高めるという。

入射したダークマター粒子が、大型容器内に満たされた液体キセノンと衝突すると、キセノン原子が発光し、電子を放出する。容器の上下にある検出器(光電子増倍管)でこの発光を検出する。衝突時にキセノンから放出された電子は、電界によって容器上部に移動し二次発光するので、これも検出する。

ダークマター粒子がキセノンに衝突するときの発光は極めて微弱なものと考えられており、その信号をとらえるにはバックグラウンドノイズのレベルを下げておく必要がある。実験施設を地中深くに建設するのはこのためである。なお、同様の次世代ダークマター検出実験が、イタリア、中国でも計画されている。

LZ実験でのダークマター粒子検出装置のイメージ。背景ノイズを減らして微弱な信号をとらえるため、地中深くに建設される(出所:バークレー研究所)

検出対象となるWIMPとしてはニュートラリーノなどが想定されている。ニュートラリーノは、素粒子物理学上の仮説である超対称性理論によって存在が予想されている超対称性粒子の一種であり、冷たいダークマター(熱的なランダムな動きの小さいダークマター粒子)の最有力候補とされている。超対称性理論が正しければ、素粒子には未発見のパートナー粒子が存在することになり、素粒子の数は現在の標準模型の2倍になるとされる。欧州の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)、国際宇宙ステーション(ISS)上に設置したアルファ分光器など、さまざまな方法での実験が続けられているが、これまでのところニュートラリーノを含む超対称性粒子が実験的に確認された事例はない。