日本マイクロソフトは1月18日、「Microsoft HoloLens」の出荷を開発者および法人向けに開始した。これまで、同社はパートナーやプレス向けにHoloLensの体験会を実施してきたが、現実の世界と3Dホログラムの世界を融合させたMR (複合現実) は、ビジネスシーンをどのように変えるのだろうか。

東京・品川の日本マイクロソフト本社に飾られた「Microsoft HoloLens」

筆者がHoloLensを初めて体験したのは、2016年4月に日本航空 (JAL) が行った記者会見だった。JALは整備士や副操縦士を目指す訓練生向けに、HoloLensを使ったトレーニングツールを開発している。実際に体験してみると、筆者の視野にはジェット機の巨大なエンジンが3Dホログラムとして立ち並び、指を動かすジェスチャーで3D CADから起こしたエンジンを自由自在に見ることができた。有益な訓練環境を容易に構築できるのは、MRデバイスの大きな魅力となるだろう。

このとき来日した米MicrosoftのHoloLens関係者は、いくつかの質問に答えている。HoloLensは「Gaze (視線)」「Gesture (ジェスチャー)」「Voice (音声)」「Spatial Sound (空間音響)」「Spatial Mapping (空間マッピング)」という5つの特徴を備えている。JALやボルボの自動車開発、ケース・ウェスタン・リザーブ大学による人体モデルをあらゆる角度から観察する「Cleveland Clinic」といった事例は「5つの特徴における一部でしかない」という。また、UWP (ユニバーサルWindowsプラットフォーム) アプリケーションがHoloLensの価値を高めることについて、無限の可能性があるとも語っている。

Microsoft Windows&Devices Group Business Strategy担当ディレクター Ben Reed氏

Microsoft HoloLens&Mixed Reality Communications担当ディレクター Craig Cincotta氏

NASAはすでに、SkypeとHoloLensを組み合わせたコミュニケーション手段を利用しているが、今回筆者は日本マイクロソフト社内のデモルームで、再びHoloLensを体験する機会を得た。目の前にあるディスプレイにSkypeのウィンドウが浮かび上がり、仮想空間に映し出されるビデオチャットや、物理空間に直接ペンでマーキングして相手と空間的情報を共有するといったシナリオは刺激的だった。頭ではわかっていたつもりだが、「これがSpatial Mappingか」とあらためて感心した。

HoloLensを体験する筆者。写真で見ると滑稽だが、HoloLensのディスプレイには旅客機が映し出され、自身が移動することで機内を移動し、視点を自由に変更できるのは実に面白い

今回、日本で発売されたHoloLensは、開発者向けの「Microsoft HoloLens Development Edition」と法人向けの「同Commercial Suite」。前者の希望小売価格は333,800円、後者は555,800円だ (ともに税込)。両者にハードウェア的な差はないが、法人向けはMDM (Mobile Device Management) やAzure AD連携、VPN接続などをサポートし、1年間のハードウェア保証が用意されている。高額なデバイスのため、関心を集めても実際の出荷数は奮わないのではと、筆者はうがった見方をしていた。

HoloLensのパッケージ構成。写真では分からないが本体を充電するための充電器やケーブルも付属する

だが、プレオーダー状況について、日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏は「欧州6カ国合計の3倍」に達したと説明した。Development EditionとCommercial Suiteでは前者が圧倒的に多く、ゲームベンダーからの問い合わせも多かったそうだ。このあたりは、今後登場してくる300~400ドル程度のVR/MRデバイスとのシナリオも関係してくるだろう。

日本マイクロソフトは、予想以上の好結果をさらに加速させるため、HoloLensの普及にさらに注力するという。その背景には「日本のデジタルワークスタイルは、新技術に対して高い関心を持つが、実装は遅い」(平野氏) という日本独自の事情がある。平野氏は建設業界や製造業、ヘルスケア、教育現場の4分野に向けてHoloLensの利便性を訴求していくと述べた。

前述の通り、HoloLensはUWPアプリケーションが動作するコンピューターでもある。別の関係者はコンシューマーへの展開は現時点でロードマップに存在しないと回答したが、今後、我々の働き方を変化させることは間違いない。

日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏

HoloLensを通して見える映像と現実世界を複合させた写真。視野の確保には「慣れ」が必要だったものの、視線の先には写真のようにさまざまなオブジェクトが空間に浮かんでいる

阿久津良和(Cactus)