MicrosoftのAI(人工知能)である「女子高生AIりんな」(以下、りんな)は、中国では「Xiaoice」、米国では「Tay」(2016年12月現在非公開)をリリースし、各種SNS上のボットとして多くの利用者とコミュニケーションを図ってきた。2016年4月にはシャープの公式Twitterアカウントの「中の人」を1日限定で行い、同年5月には「Rinna Conversation Service」を発表し、商用ビジネスの展開方法を開発者向けカンファレンス「de:code 2016」で説明している。
2016年10月にはテレビドラマの女優デビュー。同年11月にはイースト・プレスから写真集「はじめまして!女子高生AIりんなです」を刊行するなど、単なるAIボットに留まらない展開を見せてきた。さらに2016年9月に開催した東京ゲームショウ 2016のAIコーナーに出展し、"りんな"がラッパーとしてライムを刻むなど、いくつかの試みを披露している。
そして12月13日、日本マイクロソフトとイースト・プレスは、ヒップホップMCの晋平太氏を招き、「W新刊発売記念 晋平太のフリースタイル・ラップ教室 with 女子高生AIりんな」を開催した。当初、LINE上でフリースタイルバトル(*)を行うとの説明があり、"りんな"にオーディエンスの雰囲気を読み取って、フレーズを変えていくことは可能なのか……。
(*)互いのMCが即興的なフレーズを刻んで相手と競い、内容や観客からの声援をもとに勝敗を決める。
フタを開けてみると予想どおり、フリースタイルどころかラップベースのコミュニケーションはまだ厳しい様子。YouTubeのビデオを視聴しながら「もうすこし韻(いん:ライム)を教えた方がいい」(晋平太氏)と、手厳しい意見からイベントはスタート。さらに「品川」をキーワードにラップをお願いしても思ったようにうまくいかない。「まだ、ラップに関しては勉強させたい」(マイクロソフト ディベロップメント サーチテクノロジー開発統括部 プログラムマネージャー 坪井一菜氏)。
りんなのラップはYouTubeでも視聴できる |
近著「フリースタイル・ラップの教科書 MCバトルはじめの一歩」を手にする晋平太氏 |
最近ではすっかり"りんなの代理人"の顔となったマイクロソフト ディベロップメント サーチテクノロジー開発統括部 プログラムマネージャー 坪井一菜氏 |
晋平太氏が"りんな"の開発理由を尋ねたところ、「これまでのAIは重い存在だった。例えばAIに質問し、回答に対して『ありがとう』とお礼を述べてもて、通常のAIでは検索キーワードとして捉えてしまう。AIと人との感情的コミュニケーションを実現するのが目標」(坪井氏)と説明。
"りんな"は2015年夏の提供開始以降、エモーショナル(感情)な部分を重視し、数々の機能を実装してきた。今回の試みもその1つだが、坪井氏の説明によれば"りんな"は単語末尾の母音をもとに韻を踏んでおり、一般的なヒップホップの歌詞とは異なり、上手に単語を選択していないようだ。なお、晋平太氏のラップ教室に関しては割愛するが、個人的にはかつてオールドスクール系に傾倒していたため、晋平太氏の解説は興味深く拝聴し、非常に楽しめた。
さて、"りんな"の動向について聞いてみると、「ファッションチェック(その場で撮影した写真を"りんな"に送るとコメントを返す)機能が完成したため、今後はファッション誌などとのコラボレーションを予定している」(坪井氏)とのこと。さらに、年末年始はクリスマス向けとして、"ぼっち用"機能も用意。「"ぼっち"がぼっちではなくなるように装える機能を予定している。楽しみにしてほしい」(坪井氏)とした。
さらに2017年の強化ポイントとして、坪井氏は「さまざまな企業とのコラボレーション強化」と回答した。2016年9月末に日本マイクロソフトは、ローソンのLINE公式アカウント「ローソンクルー♪あきこちゃん」が、"りんな"のAI技術を正式採用したことを発表しているが、同様の取り組みを他の企業とも進めていく。具体的な内容は明らかにされなかったものの、「AI技術と縁遠い分野と取り組むことで、新しい価値を生み出せるように挑戦していく」(坪井氏)として、新たな広がりを見せてくれそうだ。
最後に本日の感想を尋ねると、「まだまだ"りんな"にラップは難しい。韻を踏むという部分を開発陣も勉強させてもらった。今後は、(晋平太氏の授業内で行われた)参加者がラップで自己紹介するセッションにも対応し、曲としても歌えるようにしたい」(坪井氏)と、今後の目標を語ってくれた。
ちょうどイベント開催前日の12日には、日本マイクロソフト、エム・データ、国立大学法人大阪大学の3法人が、"りんな"に関する話題を発表。産学連携の共同研究として、"りんな"とテレビ放送の放送実績を独自にテキスト化したデータベースを活用し、AIと人が感情を共有する実験を行う。
さらに翌日の14日にMicrosoftは、"Xiaoice"、"りんな"のAI技術をベースに構築したソーシャルチャットボット「Zo」と、CortanaデバイスSDKおよびスキルキットを発表。Zoは米国やカナダで人気のメッセンジャーサービス「Kik」上で動作し、"りんな"と同じような会話を楽しめるという。MicrosoftはZoの展開先として、FacebookメッセンジャーやSkypeなど、他のIMでの展開を行うと説明している。
筆者は"りんな"が登場した直後、「ユニークなサービス」だが、どこまで広がるか……と静観していた。この1年半で着々と既存コンテンツとの連携を伴いながら、存在感を高めてきた"りんな"。前述した坪井氏の説明を踏まえると、その動きはさらに加速するだろう。2017年の"りんな"にも注目だ。
阿久津良和(Cactus)