11月29日より米国ラスベガスでスタートしたAmazon Web Servicesの年次イベント「AWS re:Invent 2016」。本稿では、最高経営責任者(CEO)のAndy Jassy氏による基調講演の模様をお届けしたい。

古い世界が変わってきている

古い世界が変わってきている――Jassy氏はこう切り出した。急速な成長を続けるAmazon Web Servicesに比べ、これまで台頭してきた巨人企業の成長が縮小している。この状況を指して「古い世界」が「変わってきている」と揶揄したようだ。Amazon Web Servicesはこの古い世界を歩む「新しい世界の住人」ということになるのだろう。

Amazon Web Services CEO Andy Jassy氏

Amazon Web Servicesの売上は約120億米ドルとなっており、Jassy氏の自信は直近の業績が強く裏付けている。同氏はこうした業績をなしえる根幹は「スピードに応えることにある」と述べた。

クラウドに移行する最大のメリットはスピードだ。数百から数千台のサーバをセットアップするにあたって、これまでは2カ月から3カ月ほどかかっていたが、Amazon Web Servicesではこれを数秒で完了できる。また、イノベーションの速さもある。Amazon Web Servicesは1日に3つという急速なペースで新機能の追加を続けている。

新たなインスタンスを発表

クラウドサービスを使うクライアントの要求は幅広く、さまざまなワークロードがある。Amazon Web Servicesのクラウドサービスがほかのクラウドサービスと大きく違うのはこの点だ。Amazon Web Servicesはさまざまなワークロードに対応するために、さまざまな種類のインスタンスを提供している。

これまで同社が提供してきたインスタンスにはT2、M4、D2、R3、X1、I2、C4、G2、P2などがある。今回のイベントではこれらに加えて新しくR4、I3、C5、F1、Lightsailが発表された。

さまざまなワークロードに対応するには、さまざまなインスタンスが必要

R4はメモリに最適化されたインスタンスの最新版だ。従来のR3よりもリソースが強化されている。I3はIOPSに特化したインスタンスで、これから登場する予定だ。C5はコンピューティングに最適化されたインスタンスで、ベースにSkylakeを採用。これも今後登場するインスタンスとされている。

新たに発表されたインスタンスの中で興味深いのはF1だ。これはFPGAがアタッチされたインスタンスで、ハードウェアの開発などを行っている開発者や研究者、学生向けのインスタンスとされている。もう1つ注目されるのはAmazon Lightsail。これはいわばこれまでのVPSをもっと簡単に作成できるようにしたものだ。GPGPUの機能がインスタンスから利用できるようになった点も注目点の1つとなっている。

同社のサービスの特徴は機能の豊富さにもある。同じ機能でも複数の選択肢が存在しており、クライアントはそれらの中から必要な機能を選ぶことができる。Jassy氏はその一例としてデータベースを挙げ、クライアントはMySQL、PostgreSQL、MariaDB、Oracle SQL Server、Auroraなどから選択可能であり、同業他社ではこうはいかないと胸を張った。

話すキカイ - その秘密をサービスで開放

そして、Jassy氏は同社の人工知能への取り組みについて言及した。日本ではサービスが提供されていないためあまり知られていないが、同社が提供しているデジタルアシスタント「Amazon Echo」はすこぶる評判がよい。このサービスを支える根幹技術は機械学習技術であり、人工知能技術だ。

Andy Jassy氏はこうした技術を利用した新しい3つのサービス「Amazon Rekognition」「Amazon Polly」「Amazon Lex」を発表した。Amazon Rekognitionは画像認識技術、Amazon Pollyはテキスト読み上げ技術、Amazon Lexは自然言語認識技術とされている。

「話す機械」に対するイメージは世代ごとに大きく異なるだろう。鉄腕アトム、ドラえもん、ナイトライダーのナイト2000、攻殻機動隊のタチコマ、アイアンマンのジャービス、モチーフはさまざまだが、彼らであり彼女らは人間のように言葉を理解し、時には感情を持っているように振る舞い、人間をサポートする。公開したサービスは、こうした話す機械を実現するために利用できるものだ。

機械学習/人工知能の活用とサービスの提供は現在のトレンドだ。業界のビッグプレーヤーがこぞって機械学習/人工知能の研究開発に取り組み、サービスの提供を行っている。Amazon Web Servicesは今回、これらのサービスの発表でこの競争に参加し、さらに一歩先に進んだことになる。

ごまかしのない「今」へ

Jassy氏の発表は、まるで映画『アイアンマン』に登場するスターク・インダストリーズ社のイケメン敏腕科学者であり技術者社長であるトニー・スタークの話を聞いているようだった。また、発表のポイントとして挙げられたキーワードは映画『X-MEN』に出てくる超能力のようだった。しかし、誇張と言うにはあまりにも現実すぎる内容だ。ここ数年、急速に、SFの世界と現実の区切りが曖昧な世界になってきていると言える。

なお、Jassy氏は基調講演で「古い世界」という言葉を何度も使っていたのも印象深い。「古いタイプ」「古いベンダー」という言葉も使っていた。クライアントと一定の距離を保つ企業を「古い」と称し、製品をよく見せようとする姿勢を非難する意図があるように見える。

こうした企業に対し、Amazon Web Servicesはクライアントにサービスをダイレクトに提供しているため、サービスの良し悪しはクライアントがすぐに判断できる。これが「古い」やり方と「今」のやり方の違いなのだと主張しているようだった。