自転車を早く走らせようとして、立ちこぎになった経験は自転車の乗れる人であれば、誰でもあるはずだ。この立ちこぎ、誰に教わるわけでもなく、早く走ろうと身体が自然とこの格好に行き着いた人も多いだろう。立ちこぎはなぜ、自転車を早く走らることができるのか、その謎にシミュレーション技術を活用して挑んでいるのが、東京工業大学 工学院システム制御系の中島求 教授だ。

シミュレーションを活用して自転車と車いすマラソンの動きの解析を行った東京工業大学 工学院システム制御系の中島求 教授

同氏は10月に開催されたダッソー・システムズの「2016 SIMULIA Community Conference Japan」にて、「車いすマラソンと自転車競技におけるヒト-ビークル系のシミュレーションモデル開発の試み」と題した講演を行い、自転車の立ちこぎの謎、そしてリオパラリンピックでも注目を集めた車いすマラソン向け車いすのシミュレーションモデルについての研究を紹介した。

同氏はこれまで水泳についてのシミュレーションを自前で組んで活用してきたが、そうしたシミュレーション技術をさまざまなスポーツへと展開することを目的に、マルチボディシミュレーションが可能な「SIMPACK」に人体モデルを組み合わせる研究に着手したことがきっかけだという。

自転車をこぐ動作に関しては、先行研究が体育系からの側面、工学系の側面の両方から行われてきたが、例えばペダリングの際の踏み込みの力の研究であれば、ペダリングの動作のみ、といったことが大半であり、人間の運動から生み出される力が、自転車とどう絡んでいき、結果としてどういったメカニズムが生み出されているのか、という全体的な動きの研究は少なく、こういった全体的な現象の解明を目指して、研究が進められた。

自転車のシミュレーションモデルの概要 (本レポートのスライド画像はすべて2016 SIMULIA Community Conference Japan」における中島教授の発表資料を撮影したもの)

具体的な研究としては、181cm/71kgの人体モデルと自転車モデルを作成し、人体の関節の動作を入力することで、関節トルクやペダルをこぐ力を算出。座りこぎでは、ヨーとロール方向の揺れを固定したほか、骨盤も固定。足首の角度は文献から採用するなどし、そこから関節の角度などを算出。結果として、文献値とシミュレーション値は誤差の範囲内で一致しており、この誤差についても、「文献から得られない下肢長などの影響と考えられる」とするほか、クランク軸に働くトルクを測定したところ、足の踏み込みから引き上げにかけて、実際の波形の特徴を再現できることも確認されたとのことで、実際の現象にほぼ対応したと考えられるとしている。ただし、実際に自転車をこぐ際には、骨盤とサドルは固定状態でないほか、サドルに働く力が文献とシミュレーションでは異なっていたり、股関節トルクも文献とシミュレーションの身体形状の違いにより適切ではないという課題があり、今後、実験も行っていくことで、精度をさらに向上させていく必要があるとする。

座りこぎの関節運動の決定手順と、実際に得られた関節角の文献との比較

座りこぎのシミュレーション結果。文献値とほぼ同じ値を得ることができたことを確認した