米オートデスクの年次イベント「Autodesk University 2016」が11月15日(現地時間)より、米ネバダ州ラスベガスで開催されている。初日の基調講演ではCTOのJeff Kowalski氏、CEOのCarl Bass氏が登壇した。

全体セッションの会場。DJブースまであった

ものづくりに革新を起こすテクノロジーとは

オートデスク CTOのJeff Kowalski氏

先陣を切ったCTOのKowalski氏は、従来のものづくりを変える革新的なテクノロジーを紹介。同氏は「人類は昔からツールを用いてアイデアを具現化してきた。古くはピラミッドを建造し、(CADなど)ツールの進化と共に、高層建築や斬新なデザインの建築を作れるようになった。しかし、すべてのツールには良い点と悪い点がある。ツールは私達の能力を強化する一方で、発想を制限する場合があった」と語り、従来の設計ツールはその機能的な制限により自由なインスピレーションを阻害していると指摘。しかし、近年はテクノロジーの進化により、こうした状況が変わりつつあり「(設計の)自由度が向上し、アイデアを自在に具現化できるようになった」(Kowalski氏)という。Kowalski氏はものづくりに革新を起こす4つのテクノロジーを挙げた。

  • マシンラーニング
  • ジェネレーティブデザイン
  • VR(バーチャル・リアリティ)
  • ロボティクスシステム

まず、マシンラーニングについてはGPU、マルチコア・プロセッサ、クラウドコンピューティングなどの技術によりコンピューターの性能が著しく向上した点に加え、人間とは比べ物にならないスピードで経験を積むことでコンピューターが「自分自身をより賢くできるようになった」(Kowalski氏)とコメント。さらに、従来は人間の領分とされていたクリエイティブなタスクをも担うことが可能であり「オートデスクでもアルゴリズムに大量の3Dモデルデータを与え、(コンピューターが)デザインのエッセンスを把握できるようにしたい」とした。

ジェネレーティブデザインは耐久性や柔軟性、重量などの要件を設定することで、コンピューターがデザインを作り出す技術。設計の効率化だけでなく、形状最適化やラティス構造など人間には思いもつかないような形状の創出につながる点がメリットとされる。同氏はオフィスレイアウトの検討に同技術を適用した事例を紹介し、その可能性を示した。

「トロントのチームが新しいビルに引っ越すことになったので、実験的にジェネレーティブデザインを活用し、オフィスのあり方を再考してみた。スタッフの生産性を向上し、素晴らしい体験を生み出すために、物理的な要件でなく、人間の体験に影響を与える要件を(システムに)与えることにした。我々は従業員のパフォーマンスと働き方の習慣をデータ化し、システムに渡した。システムはそのデータと物理的な制約を照らし合わせ、数千ものフロアプランを生成した」(Kowalski氏)

システムが導き出したフロアプランでは、注意力の散逸を防ぐとともに人間関係が重視されていたとのことで、同氏はこの結果について「ジェネレーティブデザインを利用することで(実現可能なレベルで)ベストな体験を生み出すことができた」と胸を張った。また、Kowalski氏は2017年前半にジェネレーティブデザインを適用した新製品「Dreamcatcher」をリリースすると発表した。

「Dreamcatcher」の画面。椅子をデザインしている

ジェネレーティブデザインは建築物にも適用可能

テクノロジーは超能力のようなもの

人間の体験にまでジェネレーティブデザインを適用可能とする一方で、Kowalski氏は「体験の最大化は、(設計する人間が)実際に経験しないと難しい」と指摘し、その課題を解決しうる技術がVRだとする。VRを活用すればバーチャルでデザインを"体験"できるというわけだ。また、VRのメリットとしてアイデアの共有や、物理的に離れた人とのコラボレーションが容易になる点を挙げ、VR環境での設計を実現するテクノロジーを開発する意向を明かした。

VR環境での設計プロセスのイメージ

4つ目のテクノロジーであるロボティクスについては「新しい技術ではないが、ジェネレーティブデザインとマシンラーニングを組み合わせることで、今までにできなかったことが可能となる」とし、例えばロボットを使ってジェネレーティブデザインで生成した形状を3Dプリントする、といった新しい手法が実現すると語った。

ロボティクス、マシンラーニング、3Dプリントの組み合わせは新しい可能性を生む

Kowalski氏はまた、これらのテクノロジーがものづくりを変革する中で、人間はそれをどう受け止めれば良いのかという点に言及。「(人間に取って代わるという観点から)脅威に感じるかもしれないが、それは違う。どちらかというと超能力のようなものだ。本当に脅威になるのは、こうした超能力を使いこなす競合が現れることだ」と語り、積極的にテクノロジーを受け入れるべきだとした。