群雄割拠のコーヒー市場で新展開の狙いは

今年で日本進出20周年となるスターバックスは、新しいタイプのコーヒー文化を日本に持ち込んだ企業であることは間違いない。しかし、同様のコンセプトを持った競合店が増えていることに加え、コンビニエンスストアの低価格コーヒー、ブルーボトルコーヒーに代表されるサードウェーブと呼ばれる新たな競合店の登場と、スターバックスを取り巻く環境は厳しいものとなっている。

日本上陸20周年を迎えるスターバックスも、うかうかはしていられない市場状況

しかし、記者会見の中でシュルツ氏自身からビジネス的な狙いが言及されることはほとんどなかった。

むしろ、ビジネス的な観点を否定するような次のようなエピソードが本人の口から語られた。

“日本では成功しない”専門家の分析から約20年

「1996年に日本にスターバックスをオープンする1年前の1995年、まだスターバックスの店舗が北米以外には存在していなかった頃の話です。『どうすれば日本市場で成功することができるのか?』をテーマに、日本の有名なコンサルティング会社に調査をお願いしました。どんな市場調査の結果が出るのか、どうすれば成功することができるのか? 私はその答えを大変楽しみにしていました。ワクワクしながらコンサルティング会社のプレゼンを聞くと、彼らはこう言ったのです。『シュルツさん、大変申し訳ありません。日本ではあなたの会社は成功しません』。彼らが成功しないとした理由は大きくは次の二つでした。一つは当時の日本ではコーヒーを飲む店で禁煙は馴染まないということ。もう一つは、『シュルツさん、日本人はコーヒーを飲みながら歩きませんよ』ということでした。現在は、何百万人の人がスターバックスの白いコーヒーカップを持って、歩きながら飲んでいます。しかし、1995年時点では、『日本人には馴染みません。別のマーケットを探した方がいい』と有名なコンサルティング会社に宣言されたのです」

コンサルタントからの絶望的な指摘に、シュルツ氏は逆に奮起したようだ。

「それでも日本に進出し、成功することができれば我々のコーヒーの質の良さを証明できると思ったのです。マネージャーには、『お客様に応えることができるような店を作ろう』と言いました。美しい店を作り、お客様の期待に応えることで、コンサルタントが言っていたことが間違いだと証明したかったのです」

実は会見の冒頭でシュルツ氏は、日本で1号店を開店した当日のことをこう振り返っていた。

開店当日は真夏の暑い日。暖かいコーヒーを提供する店舗の開店日としては必ずしも好条件とはいえないお天気だったという。「朝、6時に準備をして第一号店の銀座店に向かうと、そこには店を取り囲むほどたくさんのお客様が並んでいました。私は通訳の人に、エキストラを雇ったのか? と尋ねたほどです。一番先頭に並んでいた男性のお客様がダブルトールラテを買われているのを見て、我々には成功のチャンスがあると確信しました」

この発言、コンサルティング会社の調査で日本市場での成功を全否定されたことを念頭に置くと、多くの人が並んでいる様子を見てシュルツ氏は心の底から喜び、ホッとしたのだろうと想像できる。

そしてコンサルタントによる市場分析よりも、自分達が信じる訴求ポイントを、ユーザーに全面にアピールすることの方が日本市場開拓につながると考えたのではないだろうか?