九州大学(九大)は10月18日、成体マウスの尻尾にある組織由来のiPS細胞から培養皿上で卵子を作製することに成功したと発表した。これらの卵子は正常に受精し、健常なマウスになったという。

同成果は、九州大学大学院医学研究院 林克彦教授らの研究グループによるもので、10月17日付けの英国科学誌「Nature」オンライン版に掲載された。

多能性幹細胞から体外で卵子を産生する培養システムの開発は長い間望まれていたが、これまでにいずれの動物種においても成功例はなかった。これは卵子が長期にわたり極めて複雑な過程で形成されるため、体外培養での再現が困難なことが原因であった。

同研究グループは今回、胚発生のごく初期に現われる始原生殖細胞から卵子ができるまでの5週間を3つの培養期間に区切り、基礎培地、血清濃度、成長因子、有機化合物などの組み合わせを変えるなど、各期間について基礎的な培養条件を検討した。この結果、多能性幹細胞から卵子への分化過程を再現できる培養システムを開発。同培養システムを用いて、ES細胞、胎仔の細胞由来のiPS細胞、成体の尻尾由来のiPS細胞のいずれの細胞からも、卵子を産生することに成功した。同培養システムでは、1回の培養実験で約600個から1000個の卵子が産生できる。

さらに、同培養システム内における卵子形成過程の遺伝子発現の変動を調べた結果、体内の卵子形成過程とよく似ていることがわかった。そこで、同培養システムで得られた卵子を野生型の雄マウスの精子と受精させたところ、卵子の由来に関わらず健常なマウスに発生。これにより、性的に十分に成熟した成体の尻尾から得たiPS細胞からでも、培養皿上で機能的な卵子が作られることが証明されたといえる。得られたマウスは野生型のマウスと同様に成長し、正常に子供をつくる能力も有していたという。

今回の成果について同研究グループは、卵子の形成過程のすべてを観察できるために、卵子形成に関わる遺伝子機能の解明や不妊原因の究明が進むことが期待されるとしている。また応用面では、移植を行うレシピエントの準備が必要なくなるほか、移植による免疫拒絶や発癌など母体のリスクを完全に排除することが期待できるという。

今後は、培養システムの効率化、得られる卵子の質的向上、培養システムの一部に必要な胎仔由来の組織の代替細胞の開発を進めていく考えだ。

卵子産生培養システムにより作られた卵子とそれらを体外受精して得られたマウス(IVDi:体外分化培養、IVG:体外発育培養、IVM:体外成熟培養)