改良可能な状態とすることで、成長を続けるオフィスへ

先に紹介した「コミュニケーションやコラボレーションの強化」や「健康に配慮した働きやすい環境の提供」は、オフィス移転プロジェクトの中で作られたコンセプトだ。具体的な計画の中で迷う部分があれば、そうしたコンセプトに立ち戻って考えることを繰り返したという。こうした姿勢が、多少の生産性ダウンを受け入れてでもコミュニケーション強化を優先するというような決断につながったのだろう。

もう1つのコンセプトとして用意されたのが「改良可能な変化できるオフィス」だ。これは、2007年にミッドタウンに入居してから今に至るまでの経験も踏まえたコンセプトだという。

「入居当初は当然、当時としては最先端、最適という考えで作ったオフィスだったのですが、状況はどんどん変化してきています。したがって、新オフィスは必要に応じて変えられるようにしたいと考えています」と工藤氏。

これは移転後すぐに生きてくるものではないだろうが、2020年、2050年という先々までを考えると、必要になってくる考え方だ。特にインターネットビジネスという変化の激しい業界で活躍するヤフーにとって、10年、20年とまったく変化のないオフィスで働き続けることはあまりよい状況ではないだろう。

「今はDIYを行うイベントを開催し、社員が自ら机などを作ってみたりしています。半分以上がエンジニアやデザイナーといったクリエイティブな仕事をしている人々ですが、こうしたイベントを通して、会社全体で『モノを作る』という意識を持っていられたらいいと考えているのです」と工藤氏は語った。

「情報交差点」の増加で通う意義のあるオフィスを作る

昨今の働き方改革というと、在宅ワークやサテライトオフィスなど、働く場の柔軟性を高める方向の施策が多い。特にIT系企業では、業務の多くがPCさえあれば対応できてしまうものも多いだけに、離れた場所にいてもオフィスの仲間や取引先とコミュニケーションに支障がない状態を作りつつ、自由に働けるという形がとられがちだ。ライフワークバランスの向上、移動時間を削減しての効率化などを考えれば、よい選択ではある。

しかし、ヤフーの取り組みは、あくまでもオフィスに通う前提で行われている。業務をこなすだけならば通勤の必要はないのではないかと言われている中で、通う意味をオフィスの側で作っている形だ。

「月に2回、自由な場所で仕事ができる『どこでもオフィス』という制度もありますし、メリハリをつけて働ければよいと考えています。ただし、新しいモノを生み出していくにはコミュニケーションから生まれるコラボレーションが必要です。会社に来る意味として、人と人が集うことで自然と生まれる情報交差点を増やすことを考えました」と工藤氏。

ヤフーは以前からカンパニー制をとっていることもあり、カンパニーを超えた交流に若干鈍い部分があったという。これに、物理的にオフィスが分かれているという問題も加わり、カンパニー、部署、物理という3つの壁が存在した。これを壊すのが、1カ所に集まる新オフィス移転と、フリーアドレス採用やコワーキングスペース設置といった施策だ。

「小さなことですが、以前は全員の足元に置いていたゴミ箱を撤去して壁際まで捨てに行くようにしました。これも歩く距離を増やしてコミュニケーションの機会を作る工夫です。中には、自分が何者で、何が得意であるかなどを示す小さな卓上ノボリのようなものを席に立てている部署もあります」と工藤氏が語るように、いろいろなことを積み上げることで、通い・集まる意義のあるオフィスを作り上げている状態だ。