ドイツ・アーヘン工科大学の産学連携拠点、ヨーロピアン4.0トランスフォーメーションセンター(E4TC)のレポートで、同施設では"製造業のデジタル化"に向けた取り組みを進めていると紹介した。本稿では、E4TCの運営に関わるFIR (Research Institute for Rationalisation)のGerhard Gudergan氏の話をベースに「製造業のデジタル化」についてもう少し詳しく見ていきたい。


Gudergan氏は"製造業のデジタル化"を「(製造業が)接続性を活用することで、伝統的な業界に属する企業が市場での優位性を高めるために必要なもの」と説明する。つまり、IoTを活用して新たなビジネスモデルを創出(もしくは既存のビジネスモデルの変革)するために製造業も"デジタル化"する必要がある、と言っている。デジタル化を実現するにはIT技術が鍵となるため、アーヘン工科大学はPTCなどのIT企業と手を組み、E4TCをテストフィールドとして新しいコンセプトやソリューションの研究開発に取り組んでいるわけだ。

アーヘン工科大学内にあるE4TC。産学連携で先進的な取り組みが進められている

新しいビジネスモデルの創出に成功した例として有名なのがGEとコンチネンタルタイヤだ。GEは航空エンジンの遠隔監視することで予防保全を実現し、稼働率の向上につなげるサービスを生み出した。また、コンチネンタルタイヤは運送会社に向けて、車両のホイールにセンサーを取り付けることで、ドライビングの傾向や気温などを収集、解析しフリート全体の効率化につなげるコンサルティングサービスを展開している。どちらの企業もIoTの力によって従来の製造業の枠を超えたビジネスモデルを実現した。

IoTによるビジネスモデルの変革は企業に大きなメリットをもたらす可能性を秘める一方、変革のプロセスにおいてどの企業も同じ課題に直面するとGudergan氏は指摘する。「新しいビジネスモデルを確立していく一方で、既存のビジネスモデルも両立しなければならない。また、市場のスピード、イノベーションがどんどん加速している。さらに、既存のビジネスから離れた、新しい知識やノウハウを獲得しなければならない」(同氏)。

FIRのGerhard Gudergan氏

全てをテクノロジーの導入で実現する必要はない

では、これらの困難がある中"製造業のデジタル化"はどこから手を付ければ良いのだろうか。Gudergan氏は、ドイツの製造業90社に対して調査を行い「ユーザーから製品データを収集することで、企業はよりイノベーティブなソリューションを提供できるようになる。また、開発システムとフィールドサービスのシステムを統合することで、修理手順などの情報が充実するため、フィールドサービスの質が向上することがわかった」と明かし、製品の接続性、システムの連携・統合がイノベーションにとって重要だとする。

しかし、コネクテッドな製品の新規開発、ITシステムへの投資は中小企業にとってかなりハードルが高く、Gudergan氏は「全てのことを新しいテクノロジーの導入で実現するのではなく、最低限集中すべき部分を探しだすことが大事」だと語る。

IoTが包含する領域はあまりに広く、ビジネスモデルの変革は一朝一夕で果たせるものではないが、Gudergan氏の言葉を踏まえれば「自社にとって最低限必要な要素を抽出する」ことが、多くの企業にとって"製造業のデジタル化"に向けた第1歩となる。