総合研究大学院大学(総研大)は9月1日、縄文時代の後期~晩期の福島県・三貫地貝塚から出土した縄文人の奥歯からDNAを抽出し、その核ゲノムの一部を解読することに成功したと発表した。

同成果は、総研大遺伝学専攻の大学院生 神澤秀明氏(研究当時、現在は国立科学博物館研究員)、斎藤成也教授らの研究グループによるもので、9月1日付けの科学誌「Journal of Human Genetics」に掲載された。

左から、国立科学博物館 神澤秀明研究員、総合研究大学院大学 斎藤成也教授

これまで縄文人のDNAについては、ミトコンドリアDNAの情報しか得られていなかったが、同研究グループは今回、約3000年前まで続いた三貫地貝塚にて発見された縄文時代の人骨の大臼歯からDNAを抽出し、次世代シークエンサーでその塩基配列を決定した。縄文時代という古代のDNAであるため、バクテリアなどの生物が侵食しており、大部分はヒト以外の配列だったが、数%はヒト由来のものであったという。

このヒト由来の古代DNAの塩基配列は、200塩基弱と短く、大部分は40~180塩基の長さにおさまっている。同研究グループは、古代DNA特有の死後の塩基変化などを統計的にチェックすることで、大部分の塩基配列が古代DNAであることを確認している。さらに、現代人のDNAが混入していないかどうかをミトコンドリアDNAの配列を決定して調べ、6%以下の混入が予想された2サンプルの塩基配列を合体した1億1500万塩基について、三貫地縄文人のデータとして解析した。

まず同データを、主成分分析法を用いて現代人のゲノムデータと比較したところ、大きくアフリカ人、西ユーラシア人、東ユーラシア人にわかれるなかで、三貫地縄文人は東ユーラシア人にもっとも近く位置していた。さらに、三貫地縄文人と東ユーラシア人だけで比較したところ、ヤマト人(東京周辺に居住している日本人)が三貫地縄文人と北京周辺の中国人にはさまれた位置にあり、ヤマト人はこれら2集団のあいだの混血であることが示唆された。

三貫地縄文人(赤点)と他の人類集団ゲノムデータとの遺伝的近縁関係を主成分分析(PCA)で示したもの (C) 総研大・国立遺伝学研究所

また、三貫地縄文人のゲノム塩基配列を、東ユーラシアのさまざまな人類集団の全ゲノムSNPデータと比較したところ、ヤマト人は、縄文人と東アジア北方の集団との中間に位置しており、日本列島3集団および北京の中国人と比較した場合、全体の遺伝的多様性をもっとも大きく示す第1主成分では、三貫地縄文人はアイヌ人ともっと近く、そのあとはオキナワ人、ヤマト人、中国人の順となる一方で、第2主成分でみると、三貫地縄文人はオキナワ人やヤマト人に近くなっていたという。

さらに縄文人は、現代人の祖先がアフリカから東ユーラシアに移り住んだころ、もっとも早く分岐した古い系統であること、そして、現代の本土日本人に伝えられた縄文人ゲノムの割合は15%程度であることも明らかになっている。

同研究グループは、ほかの縄文時代の遺跡の出土人骨からもDNAを抽出し、すでに多くの核ゲノムDNA配列を得ており、これらのデータをもとにして、縄文人の日本列島における多様性と他の集団との系統について、さらなる詳細な研究を進めていきたいとしている。