UQ mobileの設立にKDDIの危機感あり

両社が密になってUQ mobileの販売を進めるようになった背景を確認するには、まずKDDIのMVNOへの取り組み、さらにはUQ mobileの設立から現在に至るまでの経緯を振り返る必要がある。

KDDIは元々、現在のようなSIM単体で格安なサービスを提供するMVNOに向けた取り組みには消極的であり、かつてはセコムの「ココセコム」のように、事業者と密に協力し、端末とサービスを一体にした形でのMVNOのみを許可していた。その理由は、安価なMVNOが台頭することでユーザーがそちらに流れ、キャリアとしての売り上げが低下してしまうからである。

だがNTTドコモがMVNOを積極展開する方向に舵を切ったことで、NTTドコモ系のMVNOにユーザーが流出する危惧が高まってきたことから、KDDIもMVNOへの取り組みを積極化し始めた。その第1弾となったのが2014年6月にサービスを開始したケイ・オプティコムの「mineo」である。しかしながら、mineoがサービスを開始した直後の同年9月に、アップルがiPhoneなどに向けて提供した「iOS 8」で、auのMVNOのSIMが利用できないという問題に直面。その影響を受けてmineoの契約数が伸び悩んだことから、mineoはその後NTTドコモのMVNOにもなり、現在はマルチキャリアMVNOとしてサービス展開している。

auのMVNOとしてスタートしたmineoだが、auのネットワークに起因する問題の影響からか、現在はNTTドコモのMVNOにもなり、マルチキャリア対応を前面に打ち出している

そうしたauのネットワークに起因する問題の多さに加え、NTTドコモより契約時の接続料が高いという問題も抱えていたことから、KDDIの回線を利用してコンシューマー向けにサービスを提供するMVNOはなかなか増えなかった。そこで新たに打ち出したのが、2014年12月にKDDIが子会社「KDDIバリューイネーブラー」を設立し、自らMVNOを展開するという取り組みであった。この際、KDDIバリューイネーブラーはUQコミュニケーションズの「UQ」ブランドを借りて「UQ mobile」としてサービスを開始しているが、その時点では特段、両社が協力しての取り組みを進めているわけではなかった。

UQ mobileは元々KDDIの子会社が、auのMVNOとなって展開していたサービスであり、当初はブランド以外で、UQコミュニケーションズとの協力は特にしていなかった

ちなみにサービス開始当初のUQ mobileは、高速通信容量が2GBで月額980円の「データ高速プラン」と、通信速度が300kbpsに制限されるが、データ通信が無制限にできる「データ無制限プラン」の2つを提供し、さらにそれぞれに月額700円を追加することで、音声通話ができる「音声通話プラン」を用意するなど、他のMVNOに近い料金体系をとっていた。それゆえサービス面で目立つ特徴が見られず、多くのSIMフリー端末が利用できないなどauのネットワークに起因するネガティブな要素が目立っていたこともあり、契約数も伸び悩んだようだ。

そこで打ち出されたのが、2015年6月より、同じUQブランドを用いたUQコミュニケーションズと、量販店の店頭で営業協力をするというもの。WiMAX端末を購入する人などに、UQ mobileを紹介するなどの取り組みを進めたのだが、そこでも大きな成果が得られなかった。その結果、同年10月に両社が合併し、一体でUQ mobileのビジネスを進めることとなったのである。