企業ユーザーがWindows 10を導入するメリットは?

よく、「積極的に新OSを導入する理由がないし、検証コストもかかるので旧環境のままでいい」ということを企業向けWindowsユーザーの話としてよく聞く。企業のシステム部門や導入担当者が最も気にする点に「導入/サポートコストとユーザー教育」があるが、従来のアプリケーションがそのまま利用できるかという問題のほか、操作環境が変わることによるユーザー教育がばかにならないことが大きい。これも一理あるが、一方でWindows 7は2020年、Windows 8.1は2023年と延長サポート終了がそう遠くない未来に見えており、特にWindows 7マシンを大量に抱える企業では、そろそろ次への移行パスを見据える時期が近付いているといえる。

筆者が企業ユーザーにWindows 10への早期アップグレードを進める理由の1つは「サポート」だ。Windows 7は現在メインストリームサポートが終了し、バグ修正やセキュリティ対策のみが行われる延長サポートのフェイズに入っているが、実際のサポートの有効期間はこの延長サポートの終わる2020年1月ではなく、より短くなると考える。企業ユーザーは減価償却やリース期間の関係で、社内のPCを毎年部分的に入れ替えていく手順を踏むことが多いが、ここで最新PCが入ってきても最新OSではなく、既存のアプリケーション動作などを考慮して古いOSをダウングレード権を行使して導入していたりする。批判を受けて若干期間を延長したものの、Microsoftは現行のIntelの第6世代Coreプロセッサである「Skylake」搭載PCについて、Windows 7/8.1でのサポートを2018年7月で終了すると告知している。本来は2020年までサポートされるOSのサポート期間を1年半前倒ししているわけで、今後企業で新PCへの入れ替えが発生した場合、すぐにWindows 10導入を前提にしたシステム体制を整備しなければならない。現時点でWindows 10移行が視野に入っていなければ厳しい状況だ。

もう1つがセキュリティ上の理由で、やはり最新OSのWindows 10は従来のバージョンに比べてセキュリティ対策が大幅に向上しており、ゼロデイの脆弱性が頻繁に報告される昨今においてはマルウェア耐性の高いOSというのはそれだけで強みだろう。一般にセキュリティ機能やユーザーの目に見えない部分での役割が大きいが、Windows 10では「Microsoft Passport」と「Windows Hello」という特徴的な機能を備えている。前者が「シングルサインオン(SSO)」、後者が「生体認証(バイオメトリクス認証)」といえばわかりやすいだろう。Windows Helloは今夏に提供が予定されている「Anniversary Update」での大幅強化が予告されており、顔認証や指紋認証、そしてスマートカードリーダーなど対応ハードウェアが一気に増加する。バイオメトリクス認証はセキュリティの高さもそうだが、むしろユーザーの利便性を向上させるメリットが高い。ユーザーやネットワーク管理者は煩わしいパスワード管理から解放され、安易なパスワードで侵入を許すという悪循環から抜け出せるようになる。また、Webサイトでのバイオメトリクス認証を実現する共通基盤「FIDO 2.0」対応をMicrosoftでは標榜しており、この2.0仕様の標準化とともに一気に利用が広まると考えられる。

Windows 10へと一気に置き換えることは難しいかもしれないが、社内で場所を移動したり比較的社外への持ち出しが多いタブレット端末から、Windows 10搭載を進めていくというのは1つの手段だ。Windows 8/8.1以降のバージョンではタブレットで求められるタッチ操作や各種センサーへの対応強化が進められており、新OSを利用するメリットが高い。特にAnniversary Updateでは「Windows Ink」機能の中でタッチとペン操作を組み合わせた強力な描画入力ツール「Windows Ink Workspace」が用意され、非常に魅力的なものになっている。まずはテストケースとして、こうした用途でのWindows 10導入を進めてみるのもいいだろう。