Tech World 2016で、Lenovoが「Phab2 Pro」と「Motorola Moto Z」を発表した。前者はProject Tangoを採用した世界初の端末、後者はMoto Modsという拡張システムで機能や見た目をカスタマイズできる。これらは単なる新機能ではない。新たなスマートフォンのかたち、プラットフォームを目指している。スマートフォンのハードウエアが成熟したという見方を否定し、Lenovoはスマートフォンのさらなる進化に挑む。

スマートフォンの進化に挑戦

ここ数年スマートフォンの新製品が出てくる度に「新味がない」「驚きに欠ける」というような感想が目立つようになった。その理由として、スマートフォンの成熟が挙げられる。ハードウエアとしての形が定まり、構成部品の向上はあるものの、大きな変化が起きなくなった。

しかし、このままスマートフォンが変わらなければ、スマートフォンを利用するアプリやサービスはいまあるスマートフォンの枠に制限されてしまう。成熟した市場は安定しているが、進化は鈍る。新たな時代に踏み出すなら成熟を打ち破るしかない。

「Phab2 Pro」と「Moto Z」を披露するCEOのYuanqing Yang氏

6月9日(米国時間)に開催したTech World 2016で、Lenovoは「Phab2 Pro」と「Motorola Moto Z」を発表した。前者はGoogleのATAP(Advanced Technology and Projects group)が取り組んでいたProject Tango (現Tango)を採用した世界初の端末で、3D空間把握能力を備える。後者は、Moto Modsという拡張システムでモジュールやバックカバーを使って機能や見た目をカスタマイズできる。

Tech World 2016は製品発表会ではない。キーノートでCEOのYuanqing Yang氏は「デバイス・イノベーション」「デバイス+クラウド」「インフラスクトラクチャ」を3本柱に、コネクティビティによって変わる未来に向けたビジョンを示した。キーノートではまた、「Innovation never stands still」という言葉がたびたび使われていた。Phab2 ProとMoto Zは、その姿勢を形にした製品である。

イノベーションは停滞することなく、繰り返され続ける

Phab2 ProとMoto Zが備える機能は、単なる新機能ではない。新たなスマートフォンのかたち、プラットフォームを目指したものだ。これらから新たなエコシステムが広がるかもしれないが、リスクも大きい。それでも、Lenovoは成熟期に甘んずることなく開拓に挑戦した。

TangoファブレットPhab2 Pro、2つのスゴいところ

Phab2 Proは「Lenovo、世界初のProject Tango端末、ファブレット「Phab2 Pro」でお伝えしたように、Tangoのために設計されたファブレットである。言い換えると、空間やユーザーの動きを読み取れるデバイスだ。

なぜProject Tangoを採用したのか?

特徴はカメラとセンサーである。開発を率いたJeff Meredith氏はGPSを例に説明した。携帯電話がGPSを装備するようになったから、マップのナビゲーション、携帯電話を探す機能、見守り/安否確認、位置ゲームなど様々なことが可能になった。いまやGPSはスマートフォンになくてはならない機能である。

いまのところモーショントラッキング・カメラや深度カメラを備える端末はPhab2 Proのみだが、Tangoを活用したアプリの便利さを人々が実感し始めたら、空間や動きを読み取るためのカメラやセンサーがやがてスマートフォンに欠かせない存在になる、とMeredith氏は期待している。

背面に16メガピクセルカメラ、奥行き用のカメラ、モーショントラッキング・カメラ、前面に8メガピクセルカメラを搭載

Tango端末は、室内や建物内をデバイスの中に構築し、新たなモバイルAR(拡張現実)を可能にする。デバイスの中で部屋の広さを測ったり、仮想のドミノを並べられるし、恐竜を置いて自分の部屋を博物館にできる。これらキーノートで披露されたTango対応アプリをハンズオン会場で試してみたが、どれも面白く、個人的に特に熱中したのはドミノで、LEGO Digital Designer、鉄道模型やプラレールなどがTangoに対応したら面白そうだと思った。

「Measure It」で机を置きたいスペースの大きさを計測

デバイス内に屋内が構築されているTangoだから、アプリ内で部屋にドミノを並べて遊べる

Tangoで実物大のティラノサウルスがキーノートのステージに登場

Phab2 Proのもう1つのポイントがサイズだ。言われなければ普通のファブレットと思ってしまう。Tango端末は、数多くのカメラとセンサーを搭載し、Tangoを使用している間はSoCに大きな負荷がかかるのでバッテリーのサイズも大きくなる。

Googleが販売しているTango用の開発キットは7インチのタブレットで、カメラ/センサー類で厚みがある。しかし、日常的に使えるデバイスにまとめないと、幅広い普及は望めないとLenovoは考えた。Phab2 Proは、本体サイズが179.83×88.57×6.96~10.7ミリ(重量259グラム)で、Tangoを4時間以上も使用できるという。

幅広く普及させるには、私たちの毎日の生活で利用できるものであるべき

開発版(右)のようなカメラの出っ張りはなく、Phab2 Proは携帯しやすいファブレットに仕上がっている

「Dinos Among Us」を使って、目の前でPhab2 Proを試している人の横に恐竜を置いてみた

ホームセンターLowe’sのアプリ「Lowe’s Vision」を使って、Lowe’sで販売されている椅子をハンズオン会場に置いてみる

スマホユーザーの理想を形にしたMoto Z

Phab2 Proが新たなカメラとセンサーの可能性を提案しているのに対し、Moto Modsはスマートフォンの拡張性に挑戦している。今日のスマートフォンのインターフェイスはUSB、Wi-Fi、Bluetoothである。それらでも様々な機能を追加できるが、モビリティというスマートフォンの大きなメリットを損なうのは否めない。

Motorola、Moto Modsで機能をカスタマイズできるスマホMoto Z発表」でお伝えしたように、Moto Modsは端末の背面に装着する機能拡張/カスタマイズ・システムだ。Moto Zシリーズは、Moto Modsを装着することを考えた薄いデザインになっている。ポートがUSB-Cのみでオーディオジャックを備えないのは薄さを優先した結果だという。

USB-Cポートのみ、オーディオジャックのない極薄デザイン

スリムなスマートフォンを求める人がいる一方で、「これ以上、薄くする必要はないからバッテリーを増やして」という意見もよく目にする。またプロジェクター機能が欲しいというユーザーがいれば、映画や音楽を楽しめるようにスピーカーを充実させて欲しいという人もいる。欲を言えば、薄くて、それら全てを使えたら最高だ。Moto Z+Moto Modsは、その理想を目指している。

厚み5.19ミリのMoto Zは、本体だけでは薄すぎて持ちにくく、バックプレート「Style Shell」を装着した方がバランスが良い印象

極薄のMoto ZはMoto Modusを装着しないとカメラ部分の出っ張りが目立つ

厚み6.99ミリの「Moto Z Force」は、ほどよい厚みがあって端末のみでも持ちやすい

厚みがわずか5.19ミリのMoto Zは、様々なマテリアルが用意されたバックプレート「Style Shell」を装着してもスリムな携帯である。旅行時にはバッテリーパックの「Incipio offGRI Power Packs」を着けると最大22時間のバッテリー動作時間が追加される。JBLの「JBL SoundBoost」を装着したら迫力のあるオーディオを楽しめ、「Moto Insta-Share Projector」を使えばTVに接続しなくても端末本体だけでプレゼンテーションを行える。

端末との一体感がよくデザインされていて、いずれのMoto Modsも、そのMoto Modsの機能を内蔵した端末のような見た目、使い勝手だ。しかも、装着はマグネットなので簡単に取り外して交換できる。

左から、Style Shell、JBL SoundBoost、Insta-Share Projector、Incipio offGRI Power Packs

JBL SoundBoostを装着したMoto Z

Moto Insta-Share Projector

課題はエコシステムのサポートだ。Moto Modsを使用できるのはMoto Zシリーズのみであり、その限られたマーケットに最初から踏み込んでくるサードパーティは決して多くはないだろう。LenovoはMoto Mods Developerプログラムを用意し、またLenovo Capital Fundが1,000,000ドルを出資するコンテストも用意した。

Moto ZとMoto Modsは魅力あふれるシステムである。それでも、筆者は良い意味でも、悪い意味でもHandspringのPDA「Visor」のSpringboardを思い出したことも記しておく。

LenovoはPhab2 ProとMoto Zを日本市場に投入する強い意欲を持っている。機会があったら、皆さんもLenovoが考えるスマートフォンの未来に触れてみて欲しいと思う。