一方で海外の金融機関へ目を向けると、すでにイノベーション機能のセンター化や、ベンチャー企業と組みスピードやアイデアを短期間で手に入れるための投資に力を入れ、銀行のAPIを公開/標準化する動きも高まっている。金融機関が"Tech-Savvy"な組織へ転身するためにも、オープンイノベーション推進の下でのサービス内製化、ITの本格的な研究、デジタル人材の採用とそれに合わせた人事制度の採用、デザイン・シンキングの取り組み、特徴のないサービスにならないためのリスク評価のスピードアップ、デベロッパーコミュニティの形成が重要になるという。

こうした背景から、三菱東京UFJ銀行では、2015年にFinTechに参画したい起業家やベンチャー企業を全面支援するアクセラレータ・プログラムを立ち上げた。外部と内部のメンターによるメンタリングや、アドバイザーによるコーチングを無償で提供し、最終的には事業提携や顧客マッチング、出資も検討していくという。また、銀行APIのハッカソン「BRING YOUR OWN BANK!」も行い、デモ版のAPIを開発・提供。銀行API公開のメリットは、短期的な効果としてセキュリティの改善や新しいサービスの開発が、長期的にはサードパーティによるイノベーティブなサービスが期待できるという。

今後APIは、法制度上の解釈、APIの標準化するか否かなど論点になると考えられる。実際に欧州を中心にAPIを制度化する動きがあり、金融機関もAPIを提供し、APIエコノミーに加わる時代が来るのではと藤井氏。ただし「API自体がイノベーションにつながるかは未知の世界で、暗号通貨などの動きにも注目すべき」と締めくくった。

Fintech事業が成長するための3つのポイント

インクルージョン・ジャパン 取締役 吉沢康弘氏

インクルージョン・ジャパン 取締役の吉沢康弘氏は、まず金融機関の置かれた状況について解説。「日本の金融システムはすさまじい成功体験と、過去40年の特殊な状況に基づいて作られている」と語る。国のあらゆる資源を軍需産業に集めるというプロセスを戦後も継続し、これにより日本の産業は一気に成長。この成功体験から、人口10万人当たりの銀行支店数は世界でもトップクラスとなるほど環境が守られていた。

一方、米国ではFacebookの情報で個人の与信枠を判断する「Affirm」や、Paypalの支払い実績で即時融資が受けられる「PayPal Working Capital」といった無担保ローンが登場し、「クレジットカードを作れない」「融資を受けられない」層を中心に広く普及。また、リーマンショックを経験した若者がクレジットカードを持たなくなり、2014年と2015年ではクレジットカードの利用率が5%低下、Apple Payは8%伸長するという状況が生まれた。

ただし、これはテクノロジーの進歩とは言えず、ユーザーが"便利"よりも"不便を解消してくれる"サービスに流れていったためだと吉沢氏は言う。

さらに、吉沢氏は「日本では他の金融機関や金融庁ばかりを意識し、エンドユーザーへの意識が薄くなっている」として、Fintech事業におけるポイントを3点挙げた。ポイントとは、「金融庁や経済産業省が実際にどのような立場でいるかなど、公開情報をきちんと理解する」「消費者としての感覚が麻痺しないよう、6カ月を目途にメンバーを入れ替え続ける仕組みを推奨する」「自己完結せずにエコシステムの構築を目指す」というものだ。

最後に、FinTechに関する議論は一度会社という立ち位置を離れ、個人でさまざまな場所に参加してほしいと願う吉沢氏。「イマジネーションを広げ、お金の不自由を解決していってもらえればと思う」と講演を締めくくった。