大手のITベンダーやオープンソースの技術のユーザーが自主的に集まる組織に「ユーザー会」がある。ユーザー会では、ユーザー同士がオン、オフの場を通じてコミュニケーションを図ったり、対象の製品や技術に関するノウハウなどのやり取りを行ったりと、日々のITの運用に役立てられているケースが多い。

今回、ヴイエムウェアのユーザー会「VMUG」の総会に参加する機会を得たので、その模様をお届けしよう。

「VMUG UserCon 2016 ~VMUG総会~」は東京都内のアキバホールで開催。ヴイエムウェア側から製品のアップデート、コカコーラによるハイブリッド・クラウドに関する特別事例講演、ユーザー会から活動報告が行われた。

VMUGは、仮想インフラ部会、プライベートクラウド部会、デスクトップ仮想化部会、関西部会、中小規模向け仮想化部会と5つの部会を設けている。各部会の対象ユーザーは、仮想インフラ部会が主にvSphere Standard~Enterprise Plusを利用していて、仮想インフラの最適化を検討しているユーザー、プライベートクラウド部会はvShpereだけでなく、vRealize関連製品、NSX、vCloud Airなどの活用を考えるユーザー、デスクトップ仮想化部会はVMware Horizonを実際に運用しているユーザー、関西部会は関西メインに業務をしているユーザー、中小規模向け仮想化部会は、50程度までも仮想マシン(VM)を運用する、主にvSphere Essentials~Standardを利用するユーザーを対象としている。

以前、VMUGの方に導入事例の取材を行ったことがあるのだが、その際、「仮想デスクトップは導入コストがかかるからといって諦めてはもったいないです。ストレージを使わないなど、いろいろと手はあります」など、率直な意見をいただけたので、今回も普段の取材では聞けない話が飛び出すのではないかと期待していた。

仮想サーバのリリース自動化のベストプラクティスは?

NEC情報システムズ 小口和弘氏

仮想インフラ部会の講演では、3社のユーザーが登壇した。最初に、NEC情報システムズの小口和弘氏が「仮想サーバのリリースの自動化」について話をした。同社は、NECおよびNECグループにインフラを提供しており、そのサービスに、仮想サーバと仮想デスクトップがある。仮想デスクトップの数は1万6000に及ぶという。

同社は、仮想サーバについて、「利用の申し込みから提供」「仮想マシンのクローン」「仮想OS側のカスタマイズ」が行える仕組みを構築する際、ヴイエムウェアが提供している「vRealize Automation」などの有償製品ではなく、無償のツールによって構築することを検討したという。

小口氏は、この仕組みを構築するにあたって、「申し込みワークフロー」「ユーザー管理」「課金」「仮想マシン操作」「仮想OS操作」各作業領域に対応可能な技術を網羅したマップを紹介した。

仮想サーバのリリース自動化に伴う作業フローに対応している技術のマップ

同社ではこのマップに基づき、申し込みのワークフローはオープンソースを活用してスクラッチで開発し、仮想マシン操作と仮想OS操作については、vmrunのユーティリティを利用している。

NEC情報システムズが実際に利用している仮想サーバのリリース自動化の仕組み

小口氏が紹介したマップは、対象の作業を検討している企業にとって参考になるものだろう。

仮想マシンのバックアップのベストプラクティスは?

パソナグループ 林直樹氏

次に登場したのが、パソナグループの林直樹氏だ。同氏は、同社で仮想マシンのバックアップ製品を導入した経緯について説明した。

林氏によると、同社では仮想化をスモールスタートで導入し、拡大を図ってきたが、大規模な仮想化基盤は構築しておらず、サイロ型の物理環境からサイロ型の仮想環境にシフトした状態だという。

同社のIT部門はアプリケーションのチームとインフラのチームが分かれているのだが、仮想環境がサイロ型で構築されていることから、複数のシステムの公開が同時に行われるなど、インフラ・チームの工数が増加しているそうだ。

そうした状況での課題の1つが「バックアップ」だった。当初はコストをかけずに行うため、エクスポートだけで対処していたが、システムやデータ量が増えるにつれ、バックアップ・ソフトウェアの導入の検討が開始されたという。

ベンダーに相談したところ、さまざまな意見をもらえたが、どれもコストがかかる方法であったため、VMUGの仮想インフラ部会で相談してみたそうだ。そこでは、「ユーザー企業ならではのフラットな意見をたくさん聞くことができ、また、ユーザー企業の悩みを共有できた」と林氏。具体的には、次のような意見が部会で出たそうだ。

  • Aソフトは高いけど機能は豊富。
  • Bソフトは正直なところ使いにくい。
  • サイロ型の構成を見直したほうがよいのでは?
  • vSphere Data Protectionは無償だけど、過去にこんなトラブルがあった。
  • 非機能要件以外にやりたいことはあるの?

結果として、アプリケーション・チームで作業をしてもらえるよう、わかりやすいバックアップ・ソフトが導入され「非機能用件を満たし、工数の削減を達成した」と林氏は語った。

ネットワーク仮想化とNSXの課題とは?

リクルートテクノロジーズ 東條考博氏

最後に登場したリクルートテクノロジーズ 東條考博氏は、「ネットワーク仮想化とNSX」というテーマの下、話をした。同氏の講演は同社の導入に基づくものではなく、部会での意見に基づくものだった。

東條氏はネットワーク仮想化にまつわるユーザーの課題として、以下を紹介した。

  1. ディザスタ・リカバリのために、VMware Site Recovery Managerを使っているが、IP切り替えの設定が大変だったから、次は仮想ネットワークに移行したいが、どうしたらよいか。
  2. 仮想ネットワークを導入すると、ハイブリッド・クラウドを容易に実現できるのか。
  3. マイクロセグメンテーションは魅力的だけど、高価だし、ほかの機能がよくわからない。

続いて東條氏は、上記の3つの問いに対する、ヴイエムウェアの回答を紹介した。

最初の課題の「仮想ネットワークへの移行」については「ケースバイケースであり、ベストプラクティスはない。移行時には、vSphere Distributed Switch、ルーティングの設定変更の要否を確認する必要がある」というのが答えとなる。

なお、2つのサイトにNSXを導入した環境でオラクル製品をサイト間で移動した場合にライセンスがどうなるかを確認したところ、2つのサイト分のライセンスが必要になることがわかったと東條氏は付け加えた。

2番目の課題「仮想ネットワークによるハイブリッド・クラウドの実現」については、「NSXを導入した環境では、AWSとAzureは使用した分だけ支払えばよいが、vCloud AirはDedicated Cloudのみ利用でき、共有型はライセンス上、稼働が不可能」ということになり、「注意が必要」と東條氏。

最後の課題「マイクロセグメンテーション」については、「ウイルス検知とVMのタグ付けはサードパーティ製品で行う。タグ付けされたVMに対するアクションはNSXポリシーで設定する」「ログはvRealize Log Insightで解析できる」といった回答が得られたそうだ。

こうした回答から、東條氏は「マイクロセグメンテーションなど、機能特化型のライセンス体系を導入してほしい」と語った。

今回、1時間もない講演だけで、これだけのVMware製品のノウハウを聞くことができた。部会に参加すれば、もっとラフな形で、聞きたいことができるだろう。特に、NSXやネットワーク仮想化はサーバ仮想化ほど広がっている話題ではないため、情報を得ることが難しいのではないだろうか。

機会があれば、プライベートクラウド部会、デスクトップ仮想化部会、関西部会、中小規模向け仮想化部会が持っているノウハウもお届けしたいと思う。