文字入力や理解支援を強化した「ATOK 2016」

ジャストシステム「ATOK」開発担当者の下岡美由紀氏

「SNSなど文章を入力する場面が増えている」と語るジャストシステム CPL事業部開発部の下岡美由紀氏は、「ATOK 2016」の新機能について「意図をくみ取る」「知りたいに応える」「健康をサポート」の3つに区分した。

「意図をくみ取る」では、他の文書や同一文書内を参照しながら、文字入力時に単語やフレーズを優先して変換候補(推測候補)として提示する「ATOKインサイト」を披露。例えば、WebブラウザーでSNSを楽しんでいる場合、Webブラウザーのタブ内で使われている文字列を取得して、変換候補などに用いる。

ATOKインサイトは、Webブラウザー、Word、Excel、一太郎 2016に対応。参照先のアプリケーションが存在しない場合は、変換候補などに用いた単語やフレーズはすべて破棄される。気になるのはバックグラウンドで複数のアプリケーションが動作している場合だ。筆者はまだATOKインサイトを試していないが、下岡氏はパフォーマンスダウンを避けるため、「(ATOK 2016を導入したPCの)CPUが8コアの場合は3つのウィンドウまで参照し、4コアの場合は2つ、2コアなら1つと自動的に切り替わる」と説明していた。

例えばExcelで名簿ファイルを開いた状態では、別のアプリケーションでも名簿ファイルに含まれる文字列が変換候補に含まれる「ATOKインサイト」機能

参照対象となるアプリケーションが存在しない場合、通常の変換候補が現れる。また、参照先アプリケーション終了時は学習結果を破棄する仕組みだ

同一のアプリケーション内でもATOKインサイト機能は動作する。ジャストシステムは対応するアプリケーションとしてWord 2010以降やExcel 2010以降、Outlook 2010以降、一太郎 2016、Shuriken 2016を挙げていた

対応するWebブラウザーは図のとおりだが、Google Chromeの場合は起動オプションの指定が必要となる

「タイピングをくみ取る」では、母音の押し間違いやキーボードに対するホームポジションからずれて入力した場合でも、適切な訂正候補を提示する「ATOKタイプコレクト」を示した。両手以外にも片手だけがホームポジションからずれた場合にも対応する。また、「ぢ/じ」といった入力の誤りも、固有名詞に変換可能にする機能も搭載した。どの程度の修正能力を備えるかは、発表会の説明だけではお伝えしにくいが、"日本語を入力する"というIMEが持つ本来の意味では興味深い新機能だ。

キーの打ち間違い修正を大幅に修正する「ATOKタイプコレクト」を新搭載

「知りたいに応える」では、電子辞典の活用範囲の幅を大きく広げた。以前のATOKでも入力および変換中に電子辞典の検索は可能だが、新機能「ATOKイミクル」は、確定後の単語やWebページ上の単語に対する辞書検索を可能にした。入力中の電子辞書参照は「End」キーだが、新機能を使う場合は「Ctrl」キーを2回押す。

一太郎 2016やテキストエディターに限らず、Webページでも任意の文字列を選択すると電子辞書を索引できる「ATOKイミクル」

「ATOKイミクル」は英文にも対応し、日本語文章と同じく句読点や空白、ピリオドが含まれていても検索できる

そこで重要になるのは電子辞典/辞書。「ATOK 2016プレミアム」には、30万語を収録する「精選版日本国語大辞典 for ATOK」と、8年ぶりの改訂となるジーニアス英和辞典 第5版およびジーニアス和英辞典 第3版をベースにした「ジーニアス英和辞典/和英辞典 for ATOK」を収録。なお、「広辞苑 第6版 for ATOK」や「角川類語新辞典 for ATOK」など、一連の電子辞典を使用するには、「オールインワン辞書・辞典パック 2016 for ATOK」が必要だ。

「ATOK 2016プレミアム」には「精選版日本国語大辞典 for ATOK」と「ジーニアス英和辞典/和英辞典 for ATOK」が収録される

IMEとまったく関係がないように見えるキーワード「健康をサポート」だが、キーボード入力時の疲労を軽減するというコンセプトでいくつかの改善や新機能が加わっている。1つめは、入力時の眼精疲労を軽減するため、候補ウィンドウや辞典ウィンドウのデザインを刷新。各ウィンドウは行間など見た目を調整し、変換候補や電子辞典参照時もディスプレイサイズに応じて、表示サイズを100パーセントから400パーセントまでの8段階調整まで調整可能にしている。

筆者が確認した限りだが、使用ベータ版ではメニューのテキスト項目などは高DPIに対応しているものの、アイコンサイズの変化は確認できなかった。下岡氏は「高DPIに対応する」と説明していため、製品版では改善されるはずだ。

候補ウィンドウのデザインを刷新し、4Kディスプレイ環境でも見やすくなっている。また、筆者が確認した限りではメニューやダイアログなど文字も高DPIに対応した

もう一方の健康サポートは、入力文字数や使用時間に応じて疲労度具合を測定し、休憩をうながす「リフレッシュナビ」機能である。こちらはベータ版に収録されていないものの、入力文字数やミス回数などをカウントして独自の疲労判定を行い、休憩をうながすというものだ。会場に詰めかけた記者からは笑いが漏れる部分もあったが、個人的には一度試してみたい機能である。

休憩タイミングを入力文字数や指の移動距離などから判断する「リフレッシュナビ」

Q&Aセッションでは他の記者から、「ここ数年のATOKは、日本語そのものに対する向上が見受けられない」という質問が上がると下岡氏は、「日本語入力エンジンの改善に取り組んでいる。学習を重ねたユーザー辞書と真新しい辞書でも、同様のUX(ユーザー経験)を提供したい。そのため誤変換を減らすための学習取り消し機能や、文節区切り誤りの削減といったチューニングを本バージョンでは行っている」と回答した。

ATOK 2016の各エディションの機能差

阿久津良和(Cactus)