インテルはこのほど、同社やそのパートナー企業によるIoTへの取り組みを紹介するイベント「Intel IoT Asia 2015」を開催した。

米Intel APJ DCS エンベデット・セールス エンベデット DCS ディレクターのロニー・マカリスター氏

基調講演では米Intel APJ DCS エンベデット・セールス エンベデット DCS ディレクターのロニー・マカリスター氏が登壇。

IoTはAPJ地域(アジア太平洋と日本)だけでも、2015年の8,881億ドルの市場規模から、今後5年で2兆5,826億ドルへと、3倍以上の成長が見込まれる市場だが、Intelがこれまで行ってきたPCやサーバー事業と同様に水平的に要素を組み合わせ、イノベーションを実現することで成功するだろうとコメント。

一方で、これに向けて業界が手を組んで標準化をすすめていく必要があるという認識を示した。

IoTが生み出す経済規模。APJ地域だけで大きな市場規模が見込まれるため期待が盛り上がっている

Intelがこれまでほかの領域でも行ってきたように、水平統合によってイノベーションを実現できるという

米Intel IoT事業本部 副社長のローズ・スクーラー氏

続いて米Intel IoT事業本部 副社長のローズ・スクーラー氏が講演し、IoTを「(PC、インターネットに続く)第3のコンピューティングの波」と表現。IoTに対する今後の取り組みとして重要なのは、業界が一丸となって相互運用性を上げることだと主張する。

スクーラー氏は、実証実験の例としてリーバイスの在庫管理を紹介。商品に付けられたRFタグから得られたデータをCloudera/TAPで解析することで過剰在庫と在庫切れを減らすことができたという。

Intelの統合センサープラットフォームを利用したリーバイスの例。より確実な在庫管理でムダを減らし、かつ品切れで買えないという悪い顧客体験も減らす効果があったという

Intelが提供するIoTブラットフォームのリファレンスアーキテクチャは、いままでネットワークに繋がっていなかったモノをゲートウェイを通じて安全に接続するほか、ICCの標準に準拠しており、拡張性や接続性、管理性とセキュリティに配慮したものになっているとアピールする。すでにPoC(Proof of concept)やパイロット、本番導入を含めて市場に浸透しつつあるという。

IntelのIoTプラットフォームは業界標準に則っているため、他のシステムやソフトとも組み合わせが可能とする

すでに多くの企業が実証実験やパイロット段階、そして実際の活用を行っている

解析に関してはSAPがプラットフォームを作る事を発表しており、現在パイロット段階にある。スケーラビリティに関してはQuark/ATOM/Core/XEONに加え、ウェラブル向けのCurie/Quark SEとCPUのポートフォリオの充実をアピールした。

「x86のIntel」ということで、システムに合わせた多彩なCPUをアピール

ウェアラブル向けのモジュール「Curie」やSoC「Quark SE」もラインナップに加え、エッジ部分におけるハードウェアにも取り組む

ビックデータとその分析については、人材/スキル不足でデータサイエンティストの負担が大きいため、ビッグデータプロジェクトの実装をサポートする「TAP(Trusted Analytics Platform)」により、ビックデータエコシステムをけん引するとしている。

データサイエンティストの負担を減らすアナリティクス・プラットフォームの紹介。現在68の企業が参加している

現場消防士の状態を把握することで、消防本部が的確な指示を行うための実証モデル

IoTアプリケーション開発に関しては2つのエッジ用無償OS「Plusar Linux」と「ROCKET」を紹介。前者はYOCTO Linuxベース、後者はQuarkを中心とした32bit CPU向けの極小フットプリントのOSとなる。これにWind RiverのHELIX Cloudスイートを組み合わせることによって短期間にIoTシステムを作成できるという。

Wind Riverはクラウドスイートに加えて、エッジ用OS二種類を無償提供。YoctoベースのPulsar Linuxとマイクロコントローラー向けのROCKETがある

Intel IoTデベロッパーゾーンも開設。コミュニティは短期間に多くの参加者を集めており、アカデミックプログラムも実施

最後に標準化とコンソーシアムについて触れ、IntelとしてはOIC(Open InterConnect)による業界標準とオープンソース・ソリューションの組み合わせや、IIC(Industorial Internet Consotium)によるリファレンス・アーキテクチャとフレームワーク・テストベッドに準拠することで相互運用性を高めるという。さらにエコシステムパートナーと一緒にIoTを拡大する意欲を見せた。

Intelでは標準化を重視し、Open InterConnectとIndustrial Internet Consortiumに注力し、どちらもメンバーを2倍以上増やしている

エコシステムも機器メーカー、ソリューションプロバイダー、技術プロバイダーと連携

都市に集中する人口と課題をスマートシティで解決したい

米Intel APJ インテル・ソリューション・グループ・ディレクターのレイトン・フィリップス氏

基調講演の後は6つの分科会でセッションが行われた。トラックA-1では「スマートシティ向けIoTソリューション」ということでIntel ソリューショングループディレクターのレイトン・フィリップス氏が講演した。

フィリップス氏によると、都市で人口が2倍に増えると、都市で起こる問題は2倍以上に膨れ上がるという。そのうえで、大都市全体では現在、毎週100万人以上の人口が流入し、2030年には50億人が都市に集中という予測を紹介した。

世界のTOP600の都市をマッピングするといくつかのホットゾーンに集中し、中でアジア太平洋地域ではホットゾーンが大きく、その分さまざまな問題も発生してしまう。これらの都市問題をIoTで解消するのがスマートシティの目指すところだ。

都市の人口が増大するとそのペース以上に問題(犯罪、ゴミ……)が起きる

しかし、毎週かなりの人口が都市に流入しており、2030年には50億人が都市で生活するという予測もある

TOP600の都市をマッピングすると4つのゾーンに集中していることがわかり、特にアジア圏には大きなグループが構成されている事がわかる

Intelは都市開発における最も良い手法を模索しているが、交通や建築、インフラ、分析という4つの領域で、各都市による固有の問題と共通の課題があるという。

都市が抱える問題をまとめたもの。緑のところは都市共通の課題で黄色は個別問題となっている

例えば、交通渋滞はどの都市でも課題となっているが、個別の課題に目を向けるとドバイでは水の管理、東南アジアでは大気汚染が問題になっている。フィリップス氏は、問題解決に向けた基盤としてデータ統合やオープンスタンダード、アジリティ、トラスト、シームレスでシンプルなサービス体験、エコシステムのイノベーションの6つが重要であると説明する。

スマートシティの実現には6つのテクノロジー基盤が必要になるという

また、複数のエッジを1つのゲートウェイで管理することや、複数の通信インフラを組み合わせることで価格優位性を確保し、データを融合して新しい発見に結び付けることが重要だという。

データの収集、通信、解析のそれぞれで、技術的・経済的に有用な方法が望まれる

会津若松市長の室井照平氏

引き続き日本国内の取り組み事例として、会津若松市 市長 室井照平氏が登壇。会津若松市では1995年から人口が減少し、さらに半導体産業がファブレスや事業統合の波にさらされて縮小している。

また、ICT専門の会津大学を平成5年に設立し、1,300名の学生を抱えるものの、6割が県外からの学生で、地元就職率が80%と言うのもやや問題だという。

一方で、12万人という規模の人口は、実証実験が行いやすいこともあり、自然エネルギーや少子高齢化の先端都市として「スマートシティ会津若松」という取り組みを平成25年から推進し、雇用創出や住み続けられる街づくり、地方創生に力を入れている。

具体的な取り組みとしては、住民基本台帳とGISデータを紐付けることによって、住民のデータを位置情報とともに活用している。例えば、データを分析することで、災害時における避難マップの作成やバス路線の効率化を実現したという。

このほかには、(価値の低い)間伐材を利用したバイオマス発電や、電気自動車を利用した緊急時の電源確保、GPS搭載の除雪車による効率的な除雪や運行管理なども行っている。

さらに公用車に加速度センサーを導入し、急ブレーキが発生した地点と警察が持つ、人身事故発生個所の情報を組み合わせることで、潜在的な危険場所を把握する情報収集やスマートアグリも始まった。今後はさらにオープンな取り組みを行うほか、情報を解析するアナリストの育成に力を入れたいという。