分割の道を選んだ富士通だが、現在、富士通のPC事業が置かれた立場が厳しいのは事実だ。

富士通の年間420万台という生産規模は、国内では、東芝に次いで2番目となるが、日本および欧州を主軸に展開する一方、アジア、そして米国にも展開し、さらに、タブレットからノートPC、デスクトップPCを品揃えし、個人向けにも、企業向けにも展開するという全方位的な事業体制を敷いている構造は、開発、製造、物流といった各領域において、コスト面でのデメリットを生みやすく、どうしても収益面で厳しい状況に陥らざるを得ないといえる。

PC事業は数の経済が成り立ちやすい市場環境にある。CPUやメモリ、ハードディスク、OSといった基幹部材は、調達量が多いほど調達価格が有利になるからだ。

富士通の個人向けノートPC生産拠点となる、島根県出雲市の島根富士通

富士通の個人向けデスクトップPC生産拠点となる、福島県伊達市の富士通アイソテック

年間6,000万台規模を出荷するレノボ、5,500万台規模を出荷するヒューレット・パッカード、4,000万台を出荷するデルに対して、10分の1以下の出荷量に留まる富士通との調達価格の差は明らかで、価格競争力は打ち出しにくい。それでいて、これらの企業と同様に全方位戦略を展開しているのは明らかに不利だ。

年間1,000万台強を出荷する東芝は、ビジネス分野に特化する方向へと舵を切る一方、年間200万台規模のNECパーソナルコンピュータは、レノボ傘下でその調達力を生かしてコストを削減。その分を開発投資に回すことで国内での競争力を復活させてきた。そして、100万台以下の出荷量に留まるパナソニックやVAIOは、特定領域に特化した高付加価値モデルによって、収益確保に取り組んでいる。

こうしてみると、国内PCメーカーのなかで、富士通の置かれた立場だけが最も不安定だといっていい。なにかしらの対策を講じなければ、今後は、赤字体質からの脱却が難しいという局面へと陥る可能性もあるといえよう。

富士通の田中社長は、「今の時点で、PC事業を売却するということは決めていない。だが、長期的な観点を考えれば、いろいろな選択肢があり、状況の変化を見ていくことになる」と語る。

気になるのは、今回、田中社長が打ち出した経営方針のなかで、「営業利益率10%以上」という指標があった点だ。「私の社長在任中に、必ず達成したいと考えている数値目標であり、ICTサービス企業として、グローバルに戦える域に達した数値」と位置づけている。

だが、2015年度通期見通しではわずか3.1%。10%どころか、5%の営業利益率もはるか先にある状況だ。

だが、富士通の全事業の7割を占める主軸事業となっている、サービスやシステムプラットフォームで構成されるテクノロジーソリューション事業は、2015年度見通しでの営業利益率は6.9%。もし、選択肢のなかに、PC事業売却というカードがあるとすれば、営業利益率の目標達成への距離感はぐっと近くなるのかもしれない。