28期連続で増収増益を達成し、さらなる成長に向けてニトリは攻勢をかけるべく、オムニチャネルの取り組みを本格化させようとしている。

東京・銀座への出店が話題を集める一方、2015年度も国内だけで40店舗の新規出店を計画するなど、店舗拡大戦略に余念がない同社だが、2015年度の主要施策のひとつに初めて「オムニチャネル化実現」を掲げてみせたのだ。「オムニチャネルを通じて、お客様の買い物の利便性を向上させる仕組みを構築する」と語る、ニトリの代表取締役社長 白井俊之氏に、同社のオムニチャネル戦略について話を聞いた。

ニトリ 代表取締役社長 白井俊之(しらい としゆき)
昭和30年12月21日生まれ。昭和54年にニトリに入社し、平成13年に同社取締役に就任。22年8月に取締役専務執行役員を経て、26年5月から現職 (撮影 : 永山昌克)

――― ニトリは、成長戦略の軸として積極的な店舗展開を行っていますが、一方で通販事業はどのような位置づけになりますか

そうですね。弊社にとって通販事業は、重要な役割を担っています。

通販事業に本格的にのり出したのは2004年のことです。今では「通販=ネット」という構図で見られることが多いですが、かつては、カタログや電話注文も「通販」であり、そちらに注力していた時期もありました。

2014年度(2015年2月期)の通販事業の売上高は155億円、全体の約4%に過ぎません。ただ、ここで私が申し上げたいのは、「通販事業を単に "ネットで商品を見て、そこから購入していただく場である" というような限定的な位置づけとしていない」ということです。

ニトリでは、実店舗が中心であるとか、通販(EC)が脇役であるといったような捉え方をしていません。双方が組み合わさることで、相乗効果が出るものだと思っています。たとえば、今年4月にオープンしたニトリ プランタン銀座店は、従来店舗の約3分の1と売り場面積が限られていますから、どうしても商品展示数に限りがあります。そこで、売り場にタブレット端末を設置し、そこからニトリの通販サイトを見てもらい、色やサイズが異なる商品を注文できるようにしました。ネットは実店舗の不足部分を補うことができるツールでもあるのです。

また、弊社の商品は、約90%がプライベートブランドですから、店舗で座り心地や寝心地、触り心地を確かめて購入するというお客様も多い。そうした方々が商品を実店舗で確認してから自宅に帰って、改めて設置場所の広さなどを測りつつ、通販サイトから購入するという例も出ています。2014年4月、消費増税前の駆け込み需要期には、実店舗のレジがあまりにも混みあっていたため、実店舗にいながらスマートフォンを使ってご注文を行っていただいたということもありました(笑)。

お客様ごとに最適な購入方法をご提案するという点でも、通販事業は大切な役割を果たす存在と言えます。

購入場所がネットか実店舗かは、お客様に対して利便性を提供できさえすれば、さほど問題ではありません。たしかに今は、経営戦略上、通販事業における売り上げ目標の数字を設定しています。しかし今後、この数値をこれくらいまで伸ばしたいというような具体的な目標はないですね。

基本的な考え方は、実店舗やネットなどチャネルごとではなく、ニトリ全体としてどう成長するか。その地域でどれぐらいのお客様にニトリの商品を購入していただけるか、利用していただけるか、ということを重視しています。お客様が抱える不便さを解消し、地域でのシェアを高めるために活用できる手段のひとつがネットだというわけです。

オムニチャネルは魔法のツールではない - 米国視察で感じた3つの大切なこと

――― さて、2015年度の主要施策では、ニトリとして初めて「オムニチャネル化実現」を掲げました。なぜ、このタイミングだったのでしょうか

「オムニチャネル」という言葉は、世界的に話題になりましたが、やはり、自分の目で見なくては駄目だと考えていました。そこで、2014年の秋に、オムニチャネルの最前線を視察するためにアメリカへ渡りました。現地では、成功事例のほか、新たな取り組みなどを拝見したのですが、そこで感じたのは「オムニチャネルは魔法のツールではない」ということでした。

やはり大切なことは、「どのような製品・サービスを提供するべきか」「お客様との接点をどう持つべきか」「製品・サービスをどのようにしてお客様の手元に届けるのか」という3つの観点であり、それがあってこそのオムニチャネルなのだと思いましたね。

――― つまり、ニトリ流のオムニチャネルの形が描けてきたと?

そうですね。オムニチャネルといっても、まずは商品が大切であるという考え方は変わりません。また、すべての方々がネットを利用しているというわけではありません。たとえば、シニア層のお客様からは、カタログなどの紙媒体を見て注文をしたいという声も多くあります。大切なのは、それぞれのお客様にとって便利さをどう提案できるかということです。

2015年度はまず、お客様の購入を便利にすることに注力したいと考えています。たとえば、在庫情報や展示品情報も開示すれば、近くの店舗に在庫や展示品があるかどうかを家にいながら確認できる。別の店舗に行って実際に商品に触れたいという時だけでなく、すぐに購入したいといった緊急性にも対応できるようになります。さらに、できれば年度内には、ネット上で商品を予約できる仕組みも構築したいですね。

将来的な目標を掲げれば、自分の部屋などを写真にとってタブレットに表示し、どこにニトリの商品を置くと最適なのか、どんなコーディネートができるのかといったことが体験できるようになると良いのではと思っています。