北海道大学と星薬科大学は7月3日、安価なコバルト触媒を利用し、従来法に比べて工程と廃棄物を減らして有用分子を合成する技術を開発したと発表した。同技術は、環境負荷を低減した医薬品製造プロセスの構築につながる可能性があるという。

同成果は北海道大学大学院薬学研究院の松永茂樹 教授、星薬科大学薬学部の坂田 健准教授らによるもので、ドイツ化学誌「Angewadnte Chemie International Edition」のオンライン版で公開される。

医薬品合成では、原料の目的位置の炭素-水素結合だけを触媒の作用で活性化し、有用分子に化学変換する方法が有効とされている。その際、触媒として利用されるロジウムは優れた性能を持つものの、希少で高価な金属であることに加え、アリル基を導入するために用いるアリルアルコールを活性化処理しなければならないため、活性化に利用した化学薬品に由来する廃棄物が生じてしまうという課題がある。

同研究グループが開発した技術では、新たに開発したコバルト触媒を用いることで、活性化処理をせずにアリルアルコールをそのまま利用し、有用分子を合成することができる。安価なコバルトを用いることでコスト抑えることができ、アリルアルコールの活性化処理が不要なため水しか排出されず環境負荷を低減できる。理論計算による解析によれば、コバルト触媒が酸素原子と結合しやすい性質を持っているため、アリルアルコールを活性化処理する必要が無いという。

同研究グループは「今回の研究結果は、コバルト触媒が、ロジウム触媒の安価な代替触媒となるだけではなく、ロジウム触媒を超える性能と幅広い応用範囲を持っていることを意味します。」とコメント。今後、アリルアルコール以外のアルコールを利用できるように改良することで、コバルト触媒の応用範囲がさらに広がる期待されるとしている。

ロジウム触媒を用いる従来法(左)では、アリルアルコールと反応させるためにはあらかじめ活性化処理を施す必要があった。活性化処理、ロジウム触媒反応の2工程が必要となり、両工程で廃棄物が発生する。コバルト触媒による新手法(右)では、活性化処理が不要で、水しか出さずに目的の炭素パーツ(アリル基)を1段階で原料へ導入可能となった。