停滞から飛躍期へ、日本でWatsonが目指すもの

IBMではWatsonが一定の成果を出したことを受け、さまざまな研究機関や医療機関との共同事業を模索するようになり、その過程の一部はIBM Watsonのページで確認することができる。

一方、商業的には非常に苦戦した次期が続いていたようだ。共同事業を日本で推進しているソフトバンクの説明によれば、当初IBMはWatsonをボックス型のソリューション、つまり必要なソフトウェアやミドルウェアを導入した完成品の「箱(ハードウェア)」として販売する方法を模索したものの、実際に興味を示すユーザーも少なく、一部研究機関を除いてWatson向けのソフトウェアやソリューションを開発するベンダーも限られていたようだ。

転機となったのは、まず2013年11月に発表された「IBM Watson Developers Cloud」で、これまでボックス型ソリューションを模索していたWatsonをクラウド上に開発プラットフォームとして開放することでサードパーティの参入を容易にした。次に2014年1月に発表された10億ドルの研究開発投資と「Watson Group」の設立、同部門を主導としたWatsonのサービスプラットフォーム化だ。これにより外部参入が容易になったほか、ニューヨーク市内に2000人規模の専門家を抱える専門の開発センターが設置されたことで、開発者支援や開発されたサービスの事業化が行いやすくなった。

このようにWatsonが対外的なプラットフォームとして大きく成長を始めるのは2014年に入って以降であり、ソフトバンクとの提携もこれを踏まえて進められたものだといえるだろう。

まず日本IBMとソフトバンクの提携が最初に目指すのは、Watsonの日本語対応となる。経験学習と解析を行ううえで自然言語解析は大きな比重を占めており、この部分のローカライズを担当するのが両社の役割だ。この提携発表においてWatsonは「コグニティブ・コンピューティング・ソリューション」と呼ばれているが、つまり情報を「Cognitive (認識)」してコンピュータ的に処理する一連のソリューションということになる。

共同開発で得られた成果はソフトバンク自らがサービスに組み込む形で提供することが可能となり、外部販売も視野に入れながら、まずはソフトバンクモバイル製品ユーザー、あるいはグループ企業のヤフージャパン向けソリューションなどでの活用が見込まれる。記事冒頭で解説したような各種応用分野のほか、日本では2020年の東京オリンピックの時期までにさまざまなサービスや技術を開発する必要性に迫られており、まずは5年後の本格運用を見据えたサービス開発が主眼になるだろうと筆者は予測している。