リードを育てるプロセスもさることながら、プロセスの最初の関門であるリードの獲得をどうすべきか悩んでいるマーケティング担当者も多いのではないだろうか。リードジェネレーションとは、リードナーチャリングの起点となるプロセスであり、見込み顧客にアプローチするための個人情報の獲得と理解されることが多い。

今回は、インバウンド・マーケティングの考え方をもとに、デジタルマーケティングにおけるリードジェネレーションの方法について考えてみたい。

インバウンド・マーケティングとは何か?

インバウンドマーケティングは、マスマーケティングの限界を打破するために登場した。インターネットが普及する前、ブランドの認知と製品・サービスの理解促進の施策は、テレビやラジオのCM、広告、DMなどのメディアを介したメッセージの発信が主流であった。

これらは不特定多数をターゲットにしており、企業が顧客に良い印象を持ってもらおうと思って発信したメッセージを、ある人は好意的に受け取っても、別の人は好ましく思わないという可能性もあった。

また、B2B企業の場合、B2C企業ほどマーケティング・コミュニケーションが広告に依存することは少ない。B2B企業のマーケティング活動は対面の接触が比較的多いものの、セミナーや展示会は手探りで計画することが多く、潜在顧客の意思をくみ取ることが難しい点では、B2C企業と同じである。

現在は伝統的なメディアにインターネットが加わり、企業と顧客の接点がさらに多様化している。その結果、顧客の周辺はさまざまなブランドが発信するメッセージであふれ、顧客は情報の洪水の中で自分にとって本当に必要な情報を見つけ出すことが難しくなっている。

そこで出てきたのが、顧客自身にブランドを見つけてもらうことを目的としたアプローチである。これは、企業から顧客に対して働きかけるアウトバウンドマーケティングとは正反対であり、インバウンドマーケティングと呼ばれる。

インバウンド・マーケティングのプロセスを構成する4つのプロセス

インバウンド・マーケティングは、HubSpotのCEOであるBrian Halligan氏が提唱した。Halligan氏によると、インバウンド・マーケティングのプロセスは、下図に示すとおり、「Attract:ユーザーを引きつける」「Convert:リードへ転換させる」「Close:顧客化する」「Delight:顧客を満足させる」の4つのライフサイクルステージで構成される。

インバウンド・マーケティングの方法論 資料:http://www.hubspot.com/inbound-marketing

インバウンド・マーケティングのプロセスの特徴は、第1フェーズが見つけてもらうことを重要視している点である。一方、1920年代に提唱された購買行動における消費者心理のプロセスを示すモデルである「AIDA(Attention<注意>、Interest<関心>、Desire<欲求>、Action<行動>)」や「AIDMA(Attention<注意>、Interest<関心>、Desire<欲求>、Memory<記憶>、Action<行動>)」、電通が2005年にインターネット普及後の消費者心理プロセスとして提唱した「AISAS(Attention<注意>、Interest<関心>、Search<検索>、Action<行動>、Share<共有>)」での第1フェーズが「Attention:注意を引く」である。

これらのモデルは消費者から認知を獲得することを重要視しており、インバウンド・マーケティングの受動的に見える態度とは決定的に異なる。

インバウンド・マーケティングが注目される理由

インバウンド・マーケティングの考え方は特に目新しいものではなく、そのルーツはSeth Godin氏が提唱したパーミション・マーケティングに遡る。Godin氏は、マーケティングメッセージが届くことを事前に了承している相手との双方向のコミュニケーションの確立が重要と主張した。

パーミション・マーケティングに関しては、、一時的な認知ではなく継続的に承諾を得ることが重要であることを指摘した点、承諾は 相手との長期的な関係を通して維持されることを指摘した点が評価に値する。何より、AIDAにしろ、AIDMAにしろ、100年近く前に提唱されたマス マーケティングのモデルをいまだに引き合いに出すこと、デジタルマーケティングに応用しようとすることに無理があるように思う。

パーミション・マーケティングでは、最初の承諾を得る方法をアウトバウンド・マーケティングに頼らざるを得ないという問題点が指摘されていた。しかし、インバウンド・マーケティングは、顧客の注意を引くから顧客を引きつけるという似て非なる態度に転換することでこの問題を克服している。ただし、B2CかB2Bかの違いを問わず、リードジェネレーションでアウトバウンドの施策が完全になくなることはなく、インバウンドと合わせて双方向のアプローチを活用するのが現実的だろう。

また、マーケティングにおいて長期的な関係を重視することは、昨今の顧客エンゲージメント重視のトレンドとも合致する。顧客エンゲージメントは、ブランドを通した企業と顧客の相互活動を通じて醸成されるものであり、企業の長期的な競争優位に結びついている。上図では、プロセス全般を通じて、知らない人から目的を持った訪問者、見込み顧客、顧客、熱心なファンへと転換することが示されている。

リードジェネレーションというと、B2B企業の場合、展示会やセミナーなどで、できるだけ多くの名刺をもらうという量的な目標にとらわれることも多い。しかし、この転換に着目すると、質の高い見込み顧客を得るためには、訪問者それぞれの行動の意図を理解することがカギのようだ。

その意味では、マーケティング・オートメーション・ツールを活用すれば、訪問者それぞれの目的と好みに合わせたアプローチで接することができ、デジタルメディアの双方向性という特徴を長期的な関係の維持に活用できる。