経済産業省が東京証券取引所と共同で、女性活躍推進に優れた企業を選定・発表する事業「なでしこ銘柄」の発表が18日に行われ、KDDIは3年連続で選定を受けた。企業理念に「ダイバーシティが基本」と掲げ、女性を含む多様な人材の活躍支援に取り組んでいることが評価されており、3年連続で選定を受けたのは6社だった。また、6日に発表された「2015 J-Winダイバーシティ・アワード」でも大賞を受賞している。

取材でKDDIを訪ねるとJ-Winの表彰状が掲げられていた

同社では、2011年4月から2014年4月の3年間で、女性ライン長が約2倍になっている。2015年4月についても、現時点で「見込みとして、良いところまで来ている」状態だそうだ。ここまでの増加はどのような道筋でなされたのだろうか。同社の人事部長 白岩 徹氏に、ダイバーシティへの取り組みを伺った。

長時間労働ではなく、いかに効率よく働いて結果を出しているかが問題

KDDI 人事部長 白岩 徹氏

同社は2005年からダイバーシティを推進しており、開始から今年で10年目を迎える。ダイバーシティ推進室は2008年に設置。2011年頃までは、「第1段階」として、育児と仕事の両立支援を行っていた。出産というライフイベントを機にキャリア志向が薄れてしまい、職場での活躍の機会も少ない状況だったため、「育児をしながら、仕事もしましょう」というボトムアップの社内啓発を推進したという。2011年からは「第2段階」として、会社の意思決定の場に女性を登用して、変革を進めている。今はその真っ最中で、女性リーダーの育成登用に力を入れているとのこと。

白岩氏は、「管理職になりたいとなかなか思わないというマインドを、改めてもらう必要があります。管理職になるための条件として、評価、異動を経験していること、一定の語学力などがありますが、これらが満たされている人は自信を持って管理職を目指してほしいんです」と語る。

具体的な取り組みとして、トップダウンで行っているものの一つが代表取締役社長 田中孝司氏と女性社員約200名による「ダイレクトミーティング」だ。これは、マネージャーの候補者約200名と社長が直接対面して話をするというもの。

社長が管理職候補と直接対話することで、管理職に対する意識を持ってもらう狙いがある

ミーティングでは、「あなたたちはポテンシャルを持っているから、頑張ってほしい」「管理職になるためにクリアする必要のある語学力などの課題にも、そのために向き合ってほしい」というメッセージを伝えている。管理職になることに二の足を踏んでいる人には、「評価をもらっているのだから、自信を持って管理職を目指してほしい」と話すという。

「この会社をもっと強くするためには女性の力が重要で、君たちの活躍がこの会社を変えるのだ、と伝えています。私たちの会社において、お客さんの半分は当然女性ですが、この会社で物事を決定しているのは圧倒的に男性。これは正しいでしょうか? 正しくないですよね、ということを話しているのです」と白岩氏。

「『この会社で頑張ってやっていこう』と思っている人が、プロモーションの過程で管理職の手前を最上位と捉えるのではなく、その上に上がることが重要なんだと思い始めているのは事実です」と効果を実感しているようだ。

それと同時に、四半期ごとに行っている経営状況説明会では、女性リーダー登用の目標を示している。白岩氏は、「上長の大半が男性です。男性の中には、『何が女性活躍だ』と思う人がいるのも事実です。そのため、売上や利益と同様に、女性管理職比率についても外に公約している話であるというメッセージを発しています」と話す。

白岩氏が率いる人事部にはダイバーシティ推進室が設置されており、女性室長がダイバーシティ施策の指揮を執っている

結果、男性上司たちの意識は、明らかに変わってきたという。「評価の仕方についても、彼女たちをプロモーションしていくという考えが植え付けられたと思います。仕組みとして、否が応でも女性部下を育成して引き上げなければならない環境を作っていますし、考え方も変わってきているのです」とのこと。

「長時間労働を美徳化する考え方もありますよね。本当は仕事が終わっているのに、上司が帰らないから帰れないといったことです。それを見ている女性は『私が管理職になると、あの人たちのような働き方をしなければならないのか。それは無理だ』と思ってしまいます。家庭を持っていると時間的制約があるからです。しかし、そのリーダーと同じ方法ではなくて、女性が女性なりの働き方でリーダーを出せば良いのです。短時間でアウトプットを出していくのが一つのモデルになり、それが結果的に長時間労働を美化する社会を変えていくと思っています。いかに効率よく働いて結果を出しているかが本来は求められるところですからね」

ライン長登用プログラムで社内ネットワークを強化

意識改革に加えて、「KDDIならでは」の取り組みがあるという。その一つが「役員補佐」だ。2011年10月に新設された職位で、役員に対し、原則男性1人、女性1人の「役員補佐」を任命。役員会などに同席して、間近で経営を学ぶことができるという制度で、昨年度までに10名、今年度も含めると15名の女性が経験した。

2013年10月に「CM好感度ランキング」で同社7年ぶりの首位を獲得し、2015年1月から放映の「三太郎」CMで同ランキング歴代1位のスコアを獲得する立役者となった宣伝部長の矢野 絹子氏もその一人だという。

また、女性ライン長登用プログラムである「LIP(Ladies Initiative Program)」を2012年から実施。本部長から推薦された女性社員に対して、職場育成、集合研修、経営層とのコミュニケーションなどのプログラムで育成を施すというものである。

LIPの役割について、白岩氏はこう話す。

「女性が男性と比べて弱いのは社内のネットワーキングです。男性の場合、遅くまで働いていたり、飲みに行ったりと、いわゆる"メンター"的な人たちに出会う機会がたくさんあります。しかし、女性社員の今までの働き方を見ていると、ネットワーキングが少なくて、自分がジャッジメントを任された時に誰に相談するかという横のつながりが足りないと感じました。LIPでは同年代の次の管理職層を集めているので、ネットワーキングも一つの大きな目的になっています。管理職になったときに、悩みを共有できるようなネットワークもできています」

KDDI 宣伝部長の矢野氏は、役員補佐の経験から技術系社員との交流も生まれるなど、1年間で大きな経験を積んだという

この先、多様な働き方をけん引するのは女性

「2015 J-Win ダイバーシティ・アワード」での大賞受賞や、3年連続の「なでしこ銘柄」選定についての感想を伺うと、「これまで続けてきた取り組みがなでしこなどで評価されたと思います。女性管理職比率などでより高い数字を挙げている企業はたくさんありますが、弊社の経営層や人事が一体となってポジティブアクションを取っていることが評価されたのだと謙虚に受け止めています」とコメントしてくれた。

18日に行われたなでしこ銘柄の授賞式では白岩氏のほか、女子サッカー日本代表「なでしこジャパン」の監督 佐々木則夫氏や経済産業大臣 宮沢 洋一氏らが登壇した。全40社のなでしこ銘柄のうち、3年連続は6社のみ

今後の展開や課題について尋ねると、次のような答えが返ってきた。

「目指していく方向は今のままです。今は過渡期であって、女性管理職比率が7%になってもまだ少ないし、それだけでこの会社の働きが大きく変わるとは思っていません。まずは早期に女性管理職比率を社員の男女比率と同等の2割弱に近づけることで、この会社のダイバーシティが進んでいくと私は考えています。

これまでの取り組みで働き方が変わったことにより、女性が活躍できる土壌ができつつあります。戦略的なところに女性を取り入れていくことで、顧客満足度を高めて、会社を強くしていくことができる。お客さんの半分が女性ですから、女性の満足度が高まることは、会社を強くしていくことになるのです。お客さんの目線はもちろん、社内のジャッジメントにおいても、この先多様な働き方をけん引するのは女性だと思っています」

3年連続での「なでしこ銘柄」選定を果たした同社。4年連続での選定となるのか、今後の動きも注目されそうだ。