広告宣伝に費用をかけず、店舗にお金をかける

言うまでもなく、単サイクルのデマンド・チェーンを回していくには、商品をスピーディに配送する「高速物流」の仕組みも必要とされる。

「そのため、インディテックスでは2001年の上場時に調達した資金の大半を、高速物流の仕組み作りに投入したようです。また、オルテガ氏はITに対する関心も高く、ITの責任者とタッグを組んでサプライチェーンの仕組み作りに熱心に取り組んだようです」(齊藤氏)

先にも触れたとおり、インディテックスはすでに世界88カ国に進出し、店舗数も世界6300店強に達している。ただし、製造の中心はスペインとその近隣諸国に置き、製造した商品についても、いったんスペインに集めて一極集中のかたちで管理するという方式を採用している。そして、年間延べ2000機/週40機にも及ぶ大型輸送航空機をチャーターし、空輸によって必要な商品を48時間以内に全世界に届けている。

この高速物流の仕組みを後ろ盾に、ZARAでは、「毎週月曜と金曜日に必ず新商品を店頭に並べる」というルールも敷いている。同氏によれば、ZARAがこのルールを徹底的に守っている背後には、ZARA特有のマーケティング戦術があるという。

「ZARAはプル型の店舗集客を指向していて、広告宣伝にはほとんどお金かけず、代わりに、店舗作りにお金かけて、店舗自体の魅力で集客するという手法を採用しています。月曜・金曜に必ず新製品を並べるのも、毎週月金の来店を顧客に習慣づける戦術なんです」(齊藤氏)

ちなみに、店舗に対するインディテックスのこだわりは相当なもので、店舗設計のために30人の建築家を擁しているほどだ。対するユニクロの店舗集客手法は「プッシュ型」である。売上げの4.6%程度(小売業平均は2.2%~2.3%)を広告宣伝に費やし、その半分を折り込みのチラシ広告にかけているという。

「この施策で評価すべきは、折り込みチラシ広告を毎週金曜日に必ず配布していることです。これも消費者に対する習慣づけの一種で、プッシュとプルの違いはあるにせよ、自店舗の存在を習慣的に意識させるという点では、ZARAと同じ戦法と言えるかもしれません」(齊藤氏)

衝動買いを誘う巧みな設計

ZARAとユニクロでは、店舗の設計や、機能の仕方にも大きく違いがあるようだ。

まず、ベーシック衣料やインナーウェアを扱い、しかもプッシュ型集客を指向するユニクロでは、来店する顧客が何を買うかを事前に決めているケースがほとんどだという。そのため、ユニクロでは、「顧客が目的の商品を、いかに短時間で購入できるか」に店舗設計の軸足を置いており、店舗スタッフも、一人当たり45秒で顧客のレジ処理が終えられるよう訓練されているようだ。

対するZARAの店舗は、衣服の着こなし(スタイル・コーディネート)を提案する場であり、店を訪れた客に、店内をブラりと見回ってもらい、気になった商品を自由に試着させながら、衝動買いを誘うような設計。加えて、店舗での商品アピールの仕方も絶妙と齊藤氏は評価する。

「そもそも、ZARAに来店する顧客は、黒・白の基本色やネイビー・ベージュといった色調の服をすでに持っています。それを前提に、ZARAは、『それらの服のコーディネートに今シーズンの流行色や柄を一点でもいいから取り入れてください。それがトレンド・ファッションの着こなしです』と、店舗での商品のディスプレイを通じて提案するわけです」(齊藤氏)

「また、ZARAの商品作りの背後には、『白と黒の服に合わせるなら、同系統のこの2色しか使ってはなりません。柄もこの1つしか売りません』といった主張が必ずあります。そのため、ZARAの服はコーディネートがしやすく、女性の受けもいいわけです。しかも、こうした商品の作り方には、同種の服で色の違うものを無闇に作り、売れない色の商品が大量に売れ残ってしまうリスクもないのです」(齊藤氏)

加えて、インディテックスでは、本社のデザイン・ルームのすぐ横に、ZARAの実店舗とまったく同じユニット・商品から成る仮想店舗が作られている。デザイナーらは、その仮想店舗で新作のアイデアを膨らませたり、店舗での見栄え・コーディネートの良否を確認したりしているようだ。