「Cotex-A72」などの発表を受け、ARM社は、中国・北京で2月4日(現地時間)、プレスカンファレンスを開いた。今回のARM社の発表では、EU、米国、北京の3カ所でプレスカンファレンスが開かれた模様。北京のプレスカンファレンスは、おもに中国本土のメディアを対象としたものだが、台湾や日本からも若干の参加者があった。時差の関係で、中国でのプレスカンファレンスは、すでに英国で発表(2月3日)が行われた後となった。
中国での発表会であるため、基本的なメッセージは中国語と英語。参加者も大半が中国本土のプレス。後のメッセージは「知能コンピューティングは無限大」、「モバイルの新しい体験をスムーズに楽しむ」といった意味らしい |
発表会には、英国本社から、プロダクトグループ社長兼本社執行副社長のPete Hutton氏、CPU担当のジェネラル・マネージャであるNoel Hurley氏やARM社副社長兼メディア・プロセッシング・グループ担当ジェネラル・マネージャであるMark Dickinson氏などが参加した。
発表会は、Hutton氏、Hurley氏が行った。Hutton氏は、2009年と2014年のスマートフォンを比較し、CPU性能で17倍になるなど、イノベーションのペースが加速しているとした。その上で、今回の発表となる、Cortex-A72やMali T-880などを発表、これらの製品で、将来の「プレミアムなモバイル体験」を再定義することになるとした。
次世代の製品で可能になることは「Anything、Anywhere、Anytime」(何でも、どこでも、いつでも)だといい、その例を示した。たとえば、ゲーム専用機と同等のもの、4Kビデオ、UHDビデオのマルチキャスト、マイクロソフトのOfficeやCADアプリケーションなど、これまでデスクトップPCを必要としてきたような使い方だという。また、自然言語をクラウドの助けを借りることなく認識できるような、オンライン、オフラインなどの状況に関係なく、一貫した使い方ができるようになることが消費者に取って重要だという認識を示した。
CPUを担当するNoel氏は、具体的な発表製品について解説した。次世代の64bit CPUとなるCortex-A72、同GPUであるMali-T880などだ。また、ここで、Cortex-A72で、big.LITTLEを使う場合に、対になるプロセッサコアがCortex-A53ということなどを説明した。
その後、Hurley氏は、個々の製品を紹介していく。Cortex-A72は、16ナノメートルのFinFETでの製造を想定して設計されており、28ナノメートルプロセスで製造されたCortex-A15の3.5倍の性能を持つという。これは、スマートフォン程度の電力枠で実際の処理での比較だ。最大性能(ピーク性能)時の比較ではなく、電力管理などが行われている場合の比較となる。また、同じ処理を行わせた場合の消費電力では、Cortex-A72は、A15の25%の電力しか消費しない。さらにA72とA53を組み合わせたbig.LITTLEでは、さらに40~60%の電力削減が可能だという。
プロセッサ、GPU、メモリコントローラーの接続に利用するCoreLink CCI-500は、CPUのメモリアクセス性能はCCI-400より30%向上しており、転送バンド幅は、ピーク性能で前世代の2倍あるという。
Mali-T880は、既存のT800シリーズと同じアーキテクチャを持つが、内部が強化され、さらに新しいプロセスでの製造が可能になったことで、既存のT760の1.8倍の性能を持ち、同じ処理では、従来のMaliシリーズよりも40%も消費電力が小さくなっている。
また、今回発表のプロセッサなどが高い性能を持ちつつ、高い電力効率を実現しているのは、16ナノメートルのFinFETによる製造を想定しているからだが、ARM社は、TSMC社の製造プロセス「16nm FinFET+」に対応したPOP(Processor Optimaization Package)をリリースする。POPとは、論理的な回路から半導体製品を製造するときに利用する情報だ。これがあることで、SoCを作るメーカーは、論理的な設計データをファウンダリー(半導体製造を請け負う企業)の特定の製造プロセスにあわせて最適化する作業を短縮できる。基本的には、POPがリリースされると、サードパーティは、周辺回路との組み合わせなどSoC設計の最終段階を開始できる。このため、今回発表したCortex-A72プロセッサコアを含むSoCは、来年には、量産が可能となり、これを搭載した製品が登場する。POPがリリースされてからもさらに時間がかかるのは、最終的なSoCの設計を完了させ、マスクパターンを作ったあとで、試作品を作り、テストや検証などを行う必要があるからだ。
なお、TSMC向けのPOPを使うと、Cortex-A72は、最大2.5ギガヘルツで動作することが可能になるという。なお、これは、モバイル向けの電力効率の高い製造プロセスでの場合のクロック周波数で、サーバー向けなどに、高性能な製造プロセスを使えば、さらに高い周波数で動作できるようになる。ただし、ARMとしては、現時点では、モバイル用途を優先している。なおサーバー向けなどには、ARMからアーキテクチャライセンス(命令セットなどの仕様のみのライセンス。各メーカーが仕様を実現するプロセッサをゼロから設計できる)を受けたメーカーが別途行うのではないかと想定される。
今回の製品発表は、ARMの64bit プロセッサコアが2世代目に入ったことを示すもの。ただし、2月4日の発表時点では、プロセッサの「マイクロアーキテクチャ」については未公開のままだった。しかし、CPUを担当するHurley氏によれば、A72の性能向上や電力効率は、回路の最適化や製造プロセスの進化による部分が大きいという。