肥満に伴う生活習慣病の診断や治療の標的になるようなタンパク質が見つかった。ミンクルと呼ばれる病原体センサー分子が肥満に伴う脂肪組織の線維化を促進させる鍵となる分子で、脂肪肝や糖尿病の促進因子であることを、東京医科歯科大学大学院の菅波孝祥(すがなみ たかよし)特任教授と小川佳宏(おがわ よしひろ)教授らが発見した。メタボリックシンドロームの新しい手がかりとして注目される。9月19日付の英オンライン科学誌ネイチャーコミュニケーションズに発表した。

図. ミンクル欠損マウスでの脂肪組織線維化の抑制。脂肪組織の顕微鏡写真で、青の部分が線維化領域。左は野生型、右はミンクル欠損マウス。(提供:東京医科歯科大学)

肥満に伴って脂肪組織で慢性炎症が生じ、脂肪組織が果たす本来のホルモン分泌機能が破綻して、症状が進行すると考えられている。研究グループは、炎症が起き始めている脂肪組織で、どのような分子の発現が上がっているかを網羅的に調べた。その結果、マクロファージの膜タンパク質で、結核菌などを察知する病原体センサーとして働くミンクルが脂肪組織で増えていることを見いだした。肥満による脂肪組織の炎症部位に免疫担当のマクロファージが集まり、慢性炎症の起点になっていた。

グラフ. 高脂肪食飼育時にミンクル欠損マウスが示した糖代謝の改善(提供:東京医科歯科大学)

このミンクルの機能を詳しく解析した。ミンクルの遺伝子を欠損したマウスと野生型マウスに高脂肪食を与えて、肥満を誘導した。ともに同じように体重は増えたが、ミンクル欠損マウスでは炎症が抑えられ、脂肪組織の線維化や脂肪肝、糖代謝異常が改善していた。

培養したマクロファージに、結核菌由来糖脂質を投与してミンクルを活性化させたところ、組織の線維化に関与する遺伝子群が誘導された。肥満していないマウスの脂肪組織に、結核菌由来糖脂質を直接投与すると、線維化が誘導された。一連の実験から、ミンクルの活性化だけで、脂肪組織の線維化を起こすのに十分であることがわかった。さらに、ミンクルが全身の糖代謝にも重要な役割を果たしていることをマウスの実験で初めて示した。

菅波孝祥特任教授は「結核菌に対する病原体センサーとして知られているミンクルが、肥満による脂肪組織の線維化に関与していることが明らかになった。臨床的に、脂肪組織の線維化を伴う肥満者は脂肪肝を発症しやすいことが知られている。その原因として、ミンクルが働いているかもしれない。日本人は欧米人よりも肝臓に脂肪を蓄積しやすいため、日本人の肥満におけるミンクルの関与を調べてみたい。将来的に、メタボリックシンドロームの診断や治療に結びつく可能性がある」と期待している。

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