さて、ここまでで、WordPressの市場の勢いと、WordPressがシステムインテグレーターをユーザからメーカーに変えていくロジックをご理解いただけたと思う。ここで、WordPressによってITユーザであったシステムインテグレーターがメーカーに変革したことで生まれるビジネス上のメリットを補足する。

オープン系のシステムは開発者が別々のソフトウェアを組み合わせ、ソフトウェアの中身(構造やソース)を部分的にしか知らないエンジニアが構築していく。それゆえに、トラブルが起こり易く、長期化しやすいのである。メーカーであれば、ソフトウェアの中身を知っているので、トラブルが発生しにくく、解決時間が短くなる。つまり、サービス品質が向上するのである。

全てを自社開発していないWordPressソリューションで1社1社のインテグレーターのサービス品質が向上するのは、WordPressがOSSであるという理由が大きい。

このWordPressを活用して、もともと大手インテグレーターが手掛けていた大手Webサイトを次々に受注している会社があるので紹介する。現在、アジアで2社存在するWordPress認定コンサルタントの1社であるプライム・ストラテジーである。同社はマイナビ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、東京大学、テレビ朝日、日本マイクロソフト、Adobe Systems、JTBアジアパシフィック、Bank Negara Indonesiaなど、国内外の業界を代表する企業や政府機関のWebシステムを大手インテグレーターと競合し、受注を続けている。これはWordPressを専業的に活用し、低コストで高品質なビジネスモデルを実現しているからに他ならない。

非英語圏でのWordPressの普及

アジア圏でITユーザ化したシステムインテグレーターがWordPressによってソフトウェアメーカー化していく話を前述した。ここで、そのWordPressがアジア圏で普及していることを裏付ける話があったので紹介する。

6月に開催されたWordBench 東京やWordCamp Kansai2014 でマット氏は「非英語圏のWordPressユーザが英語圏のものを上回った。WordPressは今後、アジアでの普及に力を入れていく。それを自分の言葉で伝えたかったので、アジアの主要都市を訪問している」と発言している。

また、「次バージョンであるWordPress 4.0では日本から始まったWordPressの国際化を強化する。WordPress 4.0ではWordPressのソフトウェアと言語リソースを分離し、WordPressエンジニアの力がなくても、だれもが簡単にWordPressの多言語化ができるようにする」と述べている。

これはWordPressが世界的に今以上に普及する大きなきっかけになると考えられる。特に今後注力されているアジア圏ではその期待が大きい。

WordPressの強さは卓越したコミュニティ力であり、ITリテラシーをもった人口が多ければ成長しやすいのがWordPressコミュニティでもある。

人口が多いアジア地域にマット氏が注力し、最新バージョンで国際化が進められる。このことだけでも、アジア地域で今後ますますWordPressが普及していくように感じられる。

ちなみにアジア圏は人口が多いだけではない。数年前にニューヨークを抜き、世界一の経済圏になっている東京、GDP世界2位の中国の首都北京に、世界経済のハブ的な存在であるシンガポールがアジアにはある。さらには、20年後に世界のリーダーとなる都市には、インドネシアのジャカルタも挙げられている(米コンサルティング会社 ATカーニーレポート 2014年4月より)。

今後、東京、北京、シンガポール、ジャカルタを擁するアジアが世界経済の中心になっていく可能性はかなり高いと考える。

まとめ

CMSで世界シェア60%、世界の主要なWebサイトで22.4%のシェアを持ち、拡大を続けるWordPressの原動力はコミュニティの強さであるが、WordPressを活用した大型案件を獲得できるビジネスモデルが確立されつつある。ビジネス面はまだまだこれからという感があるが、大手インテグレーターの大型案件を奪い、WordPressで世界に進出する日本のベンチャー企業も現れてきており、WordPressの今後の機能拡張とともにビジネス面でも注目いただきたい。

オープンシステムやクラウドのような、インテグレーターにとってブラックボックス化したソリューションでビジネスをいつまでも継続はできないはずである。多くの人が想像する通り、従来のインテグレーターのビジネススタイルでは生き残れる会社は少ないと私も考える。

参入障壁が低いWordPressを活用した自社オリジナルのソリューションを立ち上げ、その技術を熟知したソフトウェアメーカーとなるのはシステムインテグレーターにとって有効な選択肢の1つである。システムインテグレーターは技術力が高くなくてはいけない。技術力が高いからインテグレーションを高品質に行えるのである。WordPressをはじめとするOSSを活用して、自社の技術力を高めることを考えてみてはどうだろうか。

著者プロフィール

吉政 忠志(YOSHIMASA Tadashi) - 吉政創成 代表取締役


ノベル、SAP、ターボリナックス、インフォテリアなどのソフトウェアメーカーに在籍した後、現在は、吉政創成株式会社というマーケティングアウトソーサーを設立し、活動している。

一般社団法人PHP技術者認定機構 代表理事、Rails技術者認定試験運営委員会 委員長、ビジネスOSSコンソーシアム 理事長、OSSコンソーシアム 副会長を歴任。