IT業界に限らず、製品やサービスを提供する事業者にとって顧客満足(CS: カスタマーサティスファクション、以降CS)を高めていくことは非常に重要な問題だ。ユーザーに「この製品は非常に良い」「ここで購入して正解だった」と満足してもらい、彼らを優良な顧客、つまりロイヤルカスタマーになってもらうために、企業はさまざまな取り組みを展開していることだろう。そこで今回は、「2014 GARTNER & 1to1 MEDIA CRM EXCELLENCE AWARD」の「Customer Service Optimization Category」において金賞を受賞するなど、顧客満足度に定評があるグローバル企業、サンディスクのグローバルカスタマーサポート担当シニアディレクター アーバシ・シェス氏に、CS向上のために同社が取り組んでいる施策や、明日からでも導入可能なCS向上Tipsを伺った。

多様なコミュニケーション手段をお客さまに提供する

サンディスク グローバルカスタマーサポート担当シニアディレクター アーバシ・シェス氏

「2014 GARTNER & 1to1 MEDIA CRM EXCELLENCE AWARD」は、調査会社のガートナーとBtoBのIT分野における米国の専門メディア 1to1 Mediaが実施する年次表彰プログラムだ。サンディスクは今年このアワードにおいて、卓越した顧客サービスの提供実績を示した企業に贈られる「Customer Service Optimization Category」部門の金賞を受賞している。

フラッシュメモリーのイノベーターとして世界をリードする同社が重要視しているのは「お客さまの声を"聴く"こと」とシェス氏は語る。しかし、一見単純そうに思えるこの施策だが、実は非常に奥が深い。というのも、グローバルに事業を展開するサンディスクのカスタマーサポートは、世界各国の文化や民族性や特徴に合わせてカスタマイズされているからだ。

「サンディスクでは、顧客が望む方法でコミュニケーションが図れるよう、多彩なプロセスを有しています」(シェス氏)とのことだが、フォーラムやライブチャット、メールや電話、携帯電話のショートメッセージ機能など、多彩なアプローチ方法を用意しているという。

例えば日本では、電話による問い合わせが約87%と非常に高い割合を占めるため「60秒以内にお客さまの望む解答をする」「E-Mailでの問い合わせには24時間以内に返信をする」など、このようなニーズに応じた施策を提供している。

「日本は、他の国と比較しても短期間で問題・課題の解決が求められ、顧客とのコミュニケーションは、電話が重要な手段となっています。これは日本固有の特徴ですね。しかし一方でインドでは、携帯電話のショートメッセージ機能(SMS)でのやりとりが好まれています。またインドには、保証期間内の修理や製品の受け渡しの際、お客さま自身がデポに足を運ぶことを好むといった特徴があります」(シェス氏)

その他、欧州ではコールセンターなどではなく、疑問や問題に対してユーザー同士が意見を述べ合えるフォーラムやソーシャルネットワークの活用が活発であるなど、カスタマーエクスペリエンスが多様性に富んでいる。

世界で評価されるための理由 - サポートの"付加価値"でCS向上を図る

上述の「Customer Service Optimization Category」部門の金賞受賞に至った経緯についても、多様性に富んだお客さまの嗜好に応じたカスタマーサポートのチャネル、コミュニケーション手段を多数用意していることがあるのではとシェス氏は語る。

「カスタマーサポートに携わる者以外、全社員がカスタマーエクスペリエンスというものについて高い理解・意識する必要があります。また、お客さまに対して単に製品やサービスを提供するだけではなく、付加価値の提供も肝要になるでしょう」とのこと。

シェス氏によれば、この付加価値とは、美しい写真を撮影するためにプロの写真家によるウェビナー(Webサイト上でのオンラインセミナー)を開催するなど、製品の利用シーンを理解した上でユーザーに喜ばれるサービスを提供するといったことが挙げられるという。

また、イノベーティブなソリューションをカスタマーサポートとして展開していることも金賞の受賞理由の1つになっているという見解をシェス氏は示している。

「米国ではAmazon.comのレビューを活用してサービス提供に反映するなど、新たな試みに対して意欲的に取り組む姿勢も評価ポイントの1つでしょう。また、そのようなカタチで新たに生み出した手法を別な国へと展開する……その際、各国の文化を理解した上で各国固有のプロセスを築きます」(シェス氏)

可能な限り「お客さまの声」を収集・集約してから戦略を練る

同氏は、「もっとも重要なポイントは、やはり "お客さまの声を聴く" こと」だという。ユーザーの声に耳を傾ける……その重要性について理解している方も多いとは思うが、実際にどのように自社の活動に組み込んでいけば良いのだろうか?

「お客さまの声を聴くのは、何もカスタマーサポート担当だけではありません。マーケティングやセールス担当からも同様にお客さまの声を収集・集約することは可能です。お客さまの『ニーズ』や『ウォンツ』を声の中から調査分析することで、先に付加価値の事例として挙げたウェビナーも誕生しました」と語るアーバシ・シェス氏。その際にもっとも重要なのが「お客さまが会社をリードする」という意識だという。

「顧客はきっとこのようなサービスを求めているに違いない」というような、企業目線の身勝手な想像や前提条件によるものではなく、あくまでもユーザー目線が重要であり、収集・集約した「お客さまからの声」の分析から "真の声" を導き出す必要があるというわけだ。

「マーケティング戦略を練る際に、お客さまから寄せられた声の分析で得られたデータを基にして、優先順位を明らかにして取り組むべき要素を2つに絞って具体的な施策に落としこむといいでしょう」とのアドバイスも。日本でも、コールセンターなどの現場において、顧客対応を定量的に評価し改善する仕組みを導入している企業もあるが、「顧客満足度向上!」というスローガンを掲げるだけで終わっている企業も少なくないだろう。

昨今のビッグデータ活用機運の高まりもあるが、「顧客の声」は企業の成長戦略を描くための重要なツールであり、資産でもある。サンディスクはこれらのツールや資産を活用できているからこそ、顧客満足度に関して世界市場で評価を得ているというわけだ。

「電話による問い合わせが約87%」という日本市場も、若年世代を中心にLINEによるコミュニケーションが爆発的に普及していることもあり、今後大きな変化が起きることも想定される。

さまざまなチャネルを通じて情報を収集できるシステム、文化や習慣の違いという多様性を理解しローカライズするといった取り組み、全社員がカスタマーエクスペリエンスを理解・意識し「お客さまが会社をリードする」のだという姿勢……これらのすべてを一気に導入することは難しいかもしれない。しかし、「お客さまの声を聴く」「お客さまとのコミュニケーション方法の最適化を図る」といったことは、比較的容易に実現できるのではないだろうか。