台湾HTCの共同創設者の一人、HT Cho氏が2007年に設立したAtrust Computerのシンクライアント製品が評判になっているという。人気の理由は、筐体がコンパクトでありながら、高いパフォーマンスと省電力性を実現していること。昨年10月に日本オフィスが開設され、1月からアセンテックをディストリビュータとして販売開始。VDIへの関心が高まるなか、モニター一体型シンクライアントやミニサーバと組み合わせた小型シンクライアントを中心に採用が進んでいる。そこで、HT Cho氏に話を聞いた。

HTC共同創設者が手がけるシンクライアント

Atrustは本社と工場を台湾に置き、欧米市場を中心に独自開発のシンクライアントを展開する企業だ。従業員数は約200名(うち技術者140名)と、メーカーとしては小規模ながら、今年度は欧米市場で昨年比2倍の約8万台の販売を見込むなど、急速に認知度を高めつつある。Atrustを設立し、現在、総経理(President)を務めるHT Cho氏は、製品の導入メリットをこう話す。

Atrust Computer 総経理 HT Cho氏

「2大ポイントは低消費電力であり、長寿命であることです。企業向けPCは、HDDなどの故障にともなう部品交換や、数年おきの製品入れ替えなど、トータルコストが高くなりがちです。われわれのソリューションは、『Turn 1 into Many』というコンセプトで、サーバを共有しリソースを有効活用できるように設計しています。リソースのムダを大幅になくすことができます」

HT Cho氏は、1980年台にDECでエンジニアとしてターミナルVT220などの開発に携わり、のちにHTCの共同創設者となったというキャリアの持ち主。そんな同氏にとっては、今手がけているシンクライアントも、30数年前に手がけたターミナルもシステムデザインは同じものだという。

Atrust Computerのシンクライアント端末

「VT220は評判がとても良く、100万台売れた大成功した端末でした。その後、1997年にHTCを立ち上げ、PDAやスマートフォンにフォーカスし、また、2007年からはシンクライアントにフォーカスするようになりました。このように扱う商品の名前は変わりましたが、ものづくりの精神はずっと変わっていません。私がものづくりで大切にしてきたのは、ワールドクラスのベースプロダクトとして、コンパクト、低価格であり、パフォーマンスが高いこと。それでいて、消費電力が低く、品質が高いことです」

人気の一体型モデルとミニサーバソリューション

人気の理由もそこにあるようだ。モニター一体型シンクライアント「a100T」は、21.5インチ解像度1,920x1,080のLED液晶画面の背面に機器をフラットに搭載したモデル。一見すると、ただのモニターにしか見えない製品だが、Atrust OSというLinuxベースの独自OSを搭載し、Citrix ICA/HDX、RDP w/Remote FX、VMware Horizon Viewといった標準的なプロトコルにフル対応する。またARMベースのCPUでパフォーマンスと省電力性を両立させている。同氏がアピールするように、シンプルで高性能を実現したものだ。

モニター一体型シンクライアント「a100T」

また、もう1つの人気モデルというミニサーバと組み合わせたオールインソリューションは、クアッドコアIntel Xeonを搭載したコストパフォーマンスの優れたサーバと、コンパクトな筐体のシンクライアント、ゼロクライアントを組み合わせたソリューションとなる。転送プロトコルPCoIPに対応したゼロクライアントや、ノート型シンクライアント、デスクトップ型クライアントをニーズに応じて導入する。

端末で注目できるのは、7月から提供を開始している新モデル「t66」だ。筐体は手のひらの乗るサイズながら、Freescale Semiconductor社製I.MX 6クアッドコアプロセッサー(ARM Coretex-A9アーキテクチャベース)を採用したことで、低消費電力で高速なマルチメディア処理性能を実現した。「小型、低消費電力で、しかも高い性能を持っています」(同氏)という、同社のものづくりのこだわりを体現したモデルとも言える。

W135xD93xH29mmの「t66」

Atrust Computer 日本法人代表 節川茂久氏

日本法人代表の節川茂久氏は、高品質という点について、台湾の品質管理と技術サポートの高さを指摘する。

「技術者が多い会社ということもありますが、とにかく対応スピードが速い。設計から製造まで自社で行っていて製品を知り尽くしていること、時差が1時間でダイレクトにサポートできることが強みになっています」という。

予想以上に速いため「日本側のフィードバックが遅い」と詰め寄られることすらあると苦笑いするほどだ。

シンクライアントは環境保護につながるという信念

AtrustとHT Cho氏に関しては特筆すべき点がある。それは、環境保護にかける情熱だ。シンクライアントというと、管理性の向上やコスト削減といった具体的なビジネスメリットに注目しやすい。実際、Atrustの製品も、デバイスを一元管理するためのソフトウェアを自社開発しており、管理を含めたトータルソリューションが提供できることが強みだ。

また、低消費電力で長寿命な製品に仕上げることで、コスト削減にも大きく貢献できるとしている。HT Cho氏によると、そのうえで重要になってくるのが環境保護という視点なのだという。

「既存のPCからシンクライアントへの移行が進むと、その分部品の廃棄が減り、CO2の排出が削減できます。これを積み上げていくと数十年後には、世界レベルでリソースのムダ使いを減らすことができます」(HT Cho氏)

HT Cho氏は、話しぶりが穏やかで、誠実な人柄を感じさせる物腰だ。だが、エンジニアらしく、こうした壮大な計画を着実に実現していこうとしている。このことは、同社の企業理念からも伺い知ることができる。

同社は、Integrity(誠実)、Quality(品質)、Innovation(革新)、Respect(尊敬)の4つを提供することを理念として掲げる。前の3つは、ものづくりや製品サポートの精神を表したものだろう。ユニークなのは、最後のRespectだ。そこには「Atrustは個性を重視した企業文化を基本とし、環境に優しい製品の研究開発を行うことで、天然資源及び顧客を尊重します」と綴られている。つまり、企業理念の1つとして環境保護に取り組んでいるわけだ。

「ムダをなくし環境を保護するという発想は30数年前から持っていました。シンクライアントはその発想を実現するものです。シンクライアントの普及は予想よりも遅れていますが、いま急ピッチで広がっていて、企業にさまざまなメリットをもたらしています。そうしたなか、環境保護というメリットについても広めていきたいと思っています。それがわれわれが提供できる"正しいソリューション"の姿だからです」(HT Cho氏)

振り返ってみると、リソースの有効活用という点では、同氏が手がけたVT220などのターミナルも似た部分を持っている。同氏はそれを情熱をもってすでに数十年間続けてきたわけだ。震災や原発事故を経て、広い視点からリソースのムダをなくそうという意識がひろがっている。Atrustが今後どんな成果を上げていくのか注目しておきたい。

HT Cho氏(左)と節川氏(右)