AppleがSamsungからTSMCに乗り換えた最大の理由の1つは「リスク回避」だろう。安定供給という面での実績はSamsungに軍配が挙がるが、一番の主要部品であるプロセッサを1社だけに握られるというのは後々何らかのリスクになる可能性がある。また、1社独占ということは「価格競争」が発生しにくいことを意味し、Appleにとってはマイナス要因となる。そこでSamsungの対抗馬としてのTSMCに投資を行い、実際に最新技術の製品を委託して、両社を競わせるのがマルチサプライヤ化を進めるAppleにとっては自然な流れだ。だが、乗り換えの噂自体は3年前からあったにもかかわらず、なかなか実現へとこぎ着けられなかった点に、この問題の難しさがある。

このあたりは筆者の推測だが、当時のTSMCは最新製造プロセスが安定しておらず、満足な供給量を確保できず、新たなリスクを取るよりもSamsungへの委託を続けるほうが安全だと判断したのだと考える。今回、WSJではAppleがTSMCとSamsungを両天秤にかけて交渉に有利な材料を引き出し、直接明記していないものの「(必要があれば)製造拠点の入れ替えや両社への委託」も行う可能性を示唆している。

だが最適化等の問題もあり、プロセッサの製造を両社で頻繁に入れ替えるような行為は難しいと思われ、当初の報道にもあるような「最新プロセスはTSMC、旧製品はSamsung」という併存体制がしばらく続くだろう。最新プロセスでSamsungの名前を持ち出すのはTSMCとの交渉のためのブラフで、実際にはTSMCへの製造委託で今後はいくと予想される。