今年のCOMPUTEXで、例年通りIntelは多くの製品、ビジネスの方向性を発表したが、モバイル分野への注力を強めた傾向は特に顕著だった。COMPUTEXの基調講演で同社のレネイ・ジェームズ(Renee James)社長は、14nmプロセス最初のIA(Intel Architecture)である「Broadwell」を、デスクトップでもラップトップでもなく、まずは主にタブレット向けの「Core M」から市場投入することを発表した。
Intelのレネイ・ジェームズ(Renee James)社長。COMPUTEX TAIPEI 2014の基調講演に登壇 |
Broadwell世代の最初のプロセッサは、タブレット向けの「Core M」。vProのラインナップも |
Core Mだけでなく、ほかに登場したのも、LTE-Advanced(CAT6)対応のモデム「XMM-7260」であったり、新興国向けの低価格帯をターゲットとした3Gモデム統合SoC「SoFIA 3G」といったコミュニケーションチップ系のものであった。XMM-7260は既に相互運用性試験向けとして出荷を開始しており、第2四半期の終わりには製品化を見込んでいる。SoFIA 3Gは3Gモデムを統合したAtomベースのSoCで、低価格スマートフォン向けに第4四半期に出荷開始する。さらにSoFIAについては、格安スマートフォン/タブレット向けで成長著しい中国の半導体企業、Rockchip Electronics社との協業展開も発表している。これまでARMのライセンスチップを主力とし、特に中国メーカーへの強い供給網を持つRockchipが、Intelの製造するAtomベースSoCの販売を取り扱うことになる。
同社の上席副社長で、PCクライアント事業を主導するカーク・スカウゲン(Kirk Skaugen)氏の発表も、Haswell世代のハイエンドデスクトップユーザー向けプロセッサ「Devil's Canyon」の市場投入や、4Kディスプレイの低価格化を推し進めPC体験を向上させるといった話のほかは、ワイヤレス給電の業界団体「A4WP」(Alliance for Wireless Power)の主幹企業として、Intelがこの技術を来年には実装する意向であることが語られたり、ジェームズ氏同様にCore MやAtom、LTEモデムに関連した話題に時間が割かれたりと、モバイルに振った内容であった。
「A4WP」への新規加入企業を発表。日本勢含むメジャープレイヤーが参加し、規格化を後押しする |
短距離での高速データ通信を可能とする新技術「WiGig」の発表もあった。ワイヤレス給電とあわせて、PCのワイヤレス化を進める |
Broadwell世代の最初の製品が、ひと桁ワット台の熱設計をターゲットとした製品セグメントに向けて投入されるということが一番象徴的であるが、同社の現在の注力分野は、これまでの伝統的なPCプラットフォームではなく、ARM系と競合するであろうモバイルの世界、タブレットや、さらにスマートフォンなどへと明確に移り変わったように見える。この分野は今後、間違いなくデバイス出荷数を大きく伸ばし、コンピューティングの主戦場になるだろう。一方で現在市場で入手できるデバイスを見れば、チップはQualcommやAllwinnerなどが当然で、Intelが現状、成長のためにここで大きなチャレンジを必要としていることは明白だ。
ただジェームズ氏は、こういった同社の大きな舵取りを、"PCの終わり"ではなく、ユーザーの欲求に応じてPCが姿を変えていく、"旅の続き"であると表現していた。PCの終わりは、これまでも何度も繰り返して覆されてきたという。例えば80年代前半、台数が頭打ちとなったコンピュータは、「家庭に入る理由など無い」という見方に反し、IBMのPC参入に代表される小型化し扱いやすいパーソナルなコンピュータとして世界中の家庭に普及した。90年代後半も、PC体験が行き詰まり、普及を主導したIBMでさえ「PCの時代は終わった」と語ったが、無線通信を標準とするCentrinoの登場で、モバイルインターネットというPC体験が創出され、PCの出荷台数はそれまでの倍以上に成長した。
新たなコンピューティングの姿においても、ムーアの法則を基盤とした性能や省電力性の向上で、ユーザーの体験をひろげ続けるというIAの世界の延長線上にあり、今度はタブレットやスマートフォン、IoTといった分野まで取り込むことで、姿を変えつつもPCは続いていくのだという。これまでの伝統的なPCの分野でも、例えばスカウゲン氏はデスクトップPCの成長は継続しており、Intelにとって重要なビジネスであることは変わらないと説明している。Core Mで始まるBroadwellも、追ってCore i7/i5などのブランドの製品がもちろん用意される。
"旅の続き"という話は、これまでIntelのエコシステムに連なってきた、特にCOMPUTEX開催地の台湾企業に対して協業体制の継続をアピールする目的もあったのかもしれない。DOS/VやCentrinoが登場したときのような進化なのか、今度こそ本当にPCが終わるのかはまだわからないが、今回のCOMPUTEXで、これまで劣勢の感もあったIAベースのモバイルデバイスが、これまでにない規模で相次いで製品化されていたことは事実だ。