とある読者から、Microsoftのセキュリティ更新プログラムの提供スタイルについて苦言を述べたい、という長文メールをいただいた。Windows 8.1 Updateリリースに伴う更新プログラムの提供タイミングや、OSサポート期間の逆転現象など、ユーザーの間に混乱を起こすような事柄が増えたのではないか、という論調である。

そこで一度、時系列に沿って、Microsoftおよび日本マイクロソフトの対応を整理し直してみよう。まず、4月9日にWindows 8.1 Updateがリリースされた。Windows 8 → 8.1への大規模アップデートと異なり、大きなトラブルはないと思われていたが、Windows Server Update Services (WSUS)経由のアップデートでトラブルが発生した。

このトラブル自体は解決済みだが、ひとつの方針転換が発生した。エンタープライズユーザーに対して、Windows 8.1 Updateの適用期限を30日から120日へ延長。WSUSなどで更新プログラムを管理している環境においては、適用期限を8月12日に変更したことを公式ブログで明らかにした。

気になるのは毎月のセキュリティ更新プログラムの配布スタイルだ。以前の発表会で日本マイクロソフトの関係者は、「Windows 8.1 Updateの適用が前提」と述べていたが、先のブログ記事では「120日間の期間中に個別のセキュリティアップデートを公開」するという。その点を確認するため、同社が毎月開催している「月例サイバーセキュリティ説明会」に出席すると、当方が質問するまでもなく「Windows 8.1とWindows 8.1 Update適用済みにPCに対して、異なる更新プログラムを提供する」と明言していた。

ここまではエンタープライズ向けの話。コンシューマー(個人向け)に対しては当初、5月12日までにWindows 8.1 Updateをインストールしなければ、以降のセキュリティ更新プログラムを適用できないとアナウンスしていた。だが、Microsoftは同日にコンシューマーに対するWindows 8.1 Updateのインストール期限を30日延長することを明らかにした。猶予は6月10日まで延びたものの、66月公開予定のセキュリティ情報および更新プログラムは適用できないとしている。

これらの対応をどう評価するかは意見が分かれるところだが、個人的にはWindows 8.1 Updateのリリースに対して準備が足りなかったのではないか、という印象を受けた。以前のMicrosoftであれば、互換性の問題など内部検証を徹底して行っただろう。だが、"ラピッドリリース"という迅速にOSをアップデートしていくスタイルを採用した同社としては、必要最小限の内部検証にとどめたのではないだろうか。

その結果、スケジュールが変わり、一部のユーザーはWindows 8.1 Updateを適用できないという問題が発生した。たとえばMicrosoft Communityのフォーラムには、Windows 8.1 Pro with Media Centerがアップデートできないとして、1,000件を超えるコメントが投稿されている。この点に関して、日本マイクロソフトに取材したところ、「弊社では『トラブルが多数報告されている』という認識はない」との回答にとどまった。

日本マイクロソフトのWindows Updateサポートチームは「Windows Update経由でWindows 8.1 Update(KB2919355)のインストールを失敗した場合について」、「Windows 8.1 Update(KB2919355)のインストール実行後"80073712" エラーが表示されて正しくインストールできない場合の対応方法について」などの記事を公開している。これらを総括的にまとめたページを作成する予定はないかと同社に尋ねてみたが、イエスともノーとも取れる回答で明言を避けた。

さて、ここで一連の情報を整理しよう。Windows 8.1 Updateの適用期間はコンシューマー向けが2014年6月10日まで、エンタープライズ向けは2014年8月12日までとなる。さらにセキュリティ更新プログラムは、それぞれ30日/120日の間は個別に提供される予定だ(図01)。

Windows 8.1 Updateの適用期間など

なお、一部で噂になっているようなWindows 8.1 Updateの提供期限といったものは設けられておらず、これらの期間を過ぎても適用可能であることに変わりはない。さらにWindows 8.1 Updateの適用期間を過ぎても未インストールの場合、Windows Update上でWindows 8.1 Updateをインストールする以外の選択肢は表示されなくなるという。つまり、それ以外の更新プログラムは提示されなくなるということだ。

一連の事象の根本的な問題は、Windows 8.1 Updateを適用できない環境が存在するという点である。使用状況によって互換性が変化するのはWindowsの常だが、今回は"ラピッドリリース"という選択が起こした問題といっても過言ではないだろう。確かに筆者が使用している複数台のPCにおいて、Windows 8.1 Updateのインストールトラブルが発生した例はないが、今後リリースされる可能性が高い、Windows 8.1 Update 2では、同じ轍を踏まないことを期待したい。

阿久津良和(Cactus)