質量の起源とされるヒッグス粒子が2012年、欧州の大加速器LHCで発見された。これは、真空がただ空虚ではなく、ヒッグス粒子がびっしり詰まっているという「新しい真空像」を示した点でも画期的な出来事だった。真空には、ヒッグス粒子以外にも、宇宙の始まりの急激な膨張であるインフレーションを起こした場、宇宙の膨張の再加速を起こす暗黒エネルギーの場など、未知のモノがまだ複数潜んでいるのではないか。

図1. 真空に潜む未知の場による光の散乱の概念図

こうした問題意識から、真空に潜む未知のモノ(場)を、世界最高強度の光を出すX線自由電子レーザー施設(SACLA、兵庫県佐用町)で、東京大学大学院理学系研究科の浅井祥仁(あさい しょうじ)教授と難波俊雄(なんば としお)助教、理化学研究所の矢橋牧名(やばし まきな)グループディレクターらが探索した。その結果を5月1日付の国際物理学誌フィジックスレターズBで発表した。細く集光したX線同士を衝突させると、未知の場がなければ、何も起きずにすれ違うだけだが、未知の何かがあると、X線が散乱される方向やエネルギーが変わるという予想を基に実験した。

図2. X線自由電子レーザー施設SACLA(提供:理化学研究所)

図3. 2枚のシリコン刃による衝突実験の模式図

今回の実験では、そうした未知のモノは見つからなかった。しかし、未知のモノは、X線領域での光子・光子散乱の断面積(反応の起こりやすさ)に対して1.7 ×10-24m2より小さいことがわかった。真空に潜む未知のモノと光の反応の強さは極めて弱い。強力な光を確実に衝突させることが実験の成否の鍵を握る。このため、研究グループは世界最高強度のX線発生装置のSACLAを使った。

シリコン単結晶から切り出した2枚の薄い刃で、10フェムト秒の超短パルスX線を1マイクロメートルの大きさまで絞り込んで確実に衝突させる技術も開発し、2013年7月23日と24日、計65万回、9時間に及ぶ衝突実験を実施した。

研究グループは「X線を用いた未知の場の探索はこの実験が初めて。SACLAは現在もその性能を向上させており、近い将来、今回よりさらに25ケタ高い感度で探索が可能になる。SACLAは、物質科学や生命科学だけでなく、素粒子や宇宙の研究のような基礎物理学にも有用である」と指摘している。

関連記事

SACLAにすごい目、高性能X線検出器を開発