南海トラフ地震を起こすとみられているプレート境界の巨大断層が従来の説よりも海側に延びて、より大きな津波を起こす可能性があることを、九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の辻健(つじ たけし)准教授とカナダのウェスタンオンタリオ大学のグループが突き止めた。波形トモグラフィと呼ばれる解析法を既存の地震探査データに適用して、弾性波速度と波形から、断層活動度の指標となる「間隙水圧」の分布を初めて捉えた。その結果、南海トラフの巨大断層では、間隙水圧が非常に高く、地震を引き起こしやすい状態であることがわかった。4 月 25 日付の欧州科学誌「Earth and Planetary Science Letters」オンライン版で発表した。

図1. これまで考えられていた南海トラフの断層構造(上)と、今回わかった断層構造(下)

断層の亀裂に存在する水の圧力(間隙水圧)が増加すると、断層を押し広げるため、断層の摩擦が小さくなり、地震が発生しやすくなる。このため、間隙水圧の分布や変化は断層の活動度を評価するのに重要な情報といえる。2011年の東日本大震災でも、間隙水圧の上昇が巨大地震の原因のひとつと考えられている。

図2. (a)調査海域と探査側線。(b)波形トモグラフィで推定した弾性波速度(P波速度)。(c)今回推定した間隙水圧分布と、新たに解釈された断層。
赤色は間隙水圧が高く、地震が起きやすい領域。青色は間隙水圧が低く、地震が起きにくい領域。(いずれも提供:九州大学)

間隙水圧は、地殻を地震波が伝わる速さの弾性波速度から推定できるが、南海トラフでは解析が難しく、その分布はよくわかっていなかった。今回、研究グループは、新たに開発した波形トモグラフィを使って、紀伊半島南東沖にある1944年東南海地震の震源周辺で約60キロにわたる海底地殻の地震探査データを解析し、プレート境界の内側にある巨大断層周辺の間隙水圧の分布を連続的に捉えることに成功した。

その結果、巨大断層の間隙水圧は岩石を破壊するほど高く、地震を引き起こしやすい状態であることがわかった。また、間隙水圧が高い巨大断層はこれまで考えられていた場所よりも海側に約30キロ延びて、南海トラフ近くまで達していた。研究グループは「この巨大断層は南海トラフへ続くプレート境界断層で、そこからいくつかの断層が海底に向かって派生している」という新しい断層像を示した。

辻健さんは「間隙水圧の高い断層が海側に延びたことで、南海トラフによる津波発生域が広くなり、より大きな津波を発生する可能性がある。政府も、南海トラフ地震津波の最大規模の予測で、トラフまで断層が動く場合を想定しているが、今回、そうした断層の形が見えてきた。間隙水圧が連続的に存在していることに注意が必要だろう。海底地殻の間隙水圧を高い解像度で捉える手法を確立できた意義も大きい。地震前には、地殻内部の間隙水圧は変化すると考えられており、この手法は断層の監視にも使える」と話している。

関連記事

南海トラフの巨大地震発生予測研究スタート

熊野灘海底下300メートルに分岐断層