単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)と産業技術総合研究所(産総研)は3月4日、カーボンナノチューブ(CNT)を溶媒中に高濃度で分散させることによって、基板上に塗工・印刷が可能な単層CNTコート剤を得ることに成功し、単層CNTの大面積厚膜塗工技術や、低コスト微細パターン印刷技術を開発したと発表した。

同成果は、TASCの畠賢治サブプロジェクトリーダー(産総研 ナノチューブ応用研究センター 首席研究員)、桜井俊介研究員(産総研 ナノチューブ応用研究センター スーパーグロースCNTチーム 主任研究員)らによるもの。

単層CNTの大面積塗工膜と微細パターン

CNTは、高強度部材、高機能電子部材、光学部材などへの応用が注目されている。一方で、幅広い用途を開拓するためには、塗工法や印刷法など、量産性を有し、かつ厚さ制御性に優れた加工技術が求められる。これまでもCNTを塗工する技術は知られていたが、厚さ制御性に限界があり、膜厚が数nmオーダーと薄い、透明導電フィルムや薄膜トランジスタなどへの適用に限られていた。数十μm程度の厚さを有するCNT厚膜を塗工して形成するには、さらにCNTを高濃度かつ安定に分散させる必要がある。

研究グループでは、スーパーグロースCNTを溶媒中に高濃度で分散させることによって、基板上に塗工、印刷が可能な単層CNTコート剤を得ることに成功した。これにより、平坦性と厚さ制御性に優れた大面積厚膜塗工技術、および印刷法による微細パターン形成技術を開発した。具体的には、単層CNTコート剤をブレードコーティング法により基板上に塗工することで、Ra/t<10%と平坦性に優れた大面積単層CNT膜を得ることが可能になった。また、塗工するコート剤の塗液厚を制御することで、この単層CNT膜の膜厚を数百nm~数十μmの広い範囲で制御することもできる。さらに、単層CNTコート剤を用いたスクリーン印刷法により、単層CNTの微細パターンを基板上に形成することも可能であり、最小幅50μmの細線印刷にも成功した。

単層CNT膜ならびに単層CNT膜の微細パターン

今回、長尺な単層CNTであるスーパーグロースCNTが、他のCNTと比較して優れた塗工性を示すことができたのは、大きな成果であるという。開発したスーパーグロースCNTコート剤と市販の短尺多層CNTからなる分散液を塗工して得られた膜を比較すると、スーパーグロースCNT膜は平坦性に優れているのに対し、市販の短尺多層CNTから得られた膜は、乾燥時に無数の亀裂が発生した。スーパーグロースCNTは、他のCNTと比較して数百μmと長尺だが、今回開発したコート剤においては、長尺な単層CNT同士が絡まり合い無数の接点を形成している網目構造を有することで、溶媒中に高濃度で分散できたという。また、この網目構造によるCNT間の結合が膜の乾燥工程においても保たれることで、スーパーグロースCNTが優れた塗工性を示していると考えられるとした。

スーパーグロースCNTと市販の短尺多層CNTの塗膜の写真

単層CNTコート剤を構成する溶媒は、水や様々な有機溶媒から選択できる。この点を利用して、溶媒中に他の物質を溶解させて、複合材料膜を塗工することも可能。以前に、スーパーグロースCNTとゴムの複合材料から、導電性ゴムなどの機能性材料が得られることが報告されているが、今回の成果によって、様々な複合材料膜を量産性に優れた塗工法により得ることが可能になる。また、界面活性剤などの分散剤を一切用いずに塗工することにより、電極材料などに適した不純物が極めて少ないCNT膜が塗工できる。この他、同材料は、使用する基板も無機、有機を問わない。

様々な単層CNTコート剤、複合材料膜、基板

同技術により、幅広い用途で低コストに単層CNTを利用できるようになる。電気二重層キャパシタなどの電池用電極部材に関しては、塗工膜を利用する検討がすでに開始されている。さらに、高電流容量配線、放熱用部材、フレキシブルエレクトロニクス部材、黒色コーティング膜、高強度軽量部材など、様々なCNT機能性部材の成形技術に使われることが期待される。

今回開発した技術について期待される波及効果

今後は、開発したCNTや複合材料の膜の試料提供と技術移転を、TASCを通じて積極的に進めることで、企業と連携してCNTの用途開発を進める。同時に、CNT膜の構造(空隙率など)制御技術、異種材料(金属など)との複合材料膜形成技術などの開発も引き続き進めるとコメントしている。