ネットワークレイテンシはアプリへのペナルティとなる

関陽介氏(Fringe81)

イベントも終盤に差し掛かり、会場からの質問を受け付けることとなった。オークションの具体的な仕組みやプロトコルについての質問も出され、登壇者がそれぞれについて丁寧に解説していた。

DSPとSSP(Supply-sideplatform。媒体側の立場に立つ企業のこと)の間のプロトコルは、「国内初のDSPであるフリークアウト社が定めたプロトコルを慣習的に使うSSPも多い(菅原氏)」一方で、最近は「OpenRTBという共通プロトコルの普及が進み、それを用いることが多い(久森氏)」のだそうだ。

また、ネットワークレイテンシーへの質問については「SSPのサーバの所在地はいつも気にしている。海外ではAWSでリージョンを適切に選ぶ必要がある(神田氏)」「AWSでアベイラビリティーゾーンを選ぶことは必要(関氏)」「米国の東海岸と西海岸では100msを超えてしまい不可能(菅原氏)」といずれも厳しい意見が相次いだ。ネットワークレイテンシーが大きければその分アプリのロジックに使える時間が減るので、レイテンシは少なければ少ないほどいいというのが、アドテクノロジーでの共通認識のようだ。

枯れた技術を、極限までチューニングする

このように最先端の技術を必要とするアドテクノロジーのシステムを、どのようなプロダクトを用いて構成すべきなのかは興味があるところだ。会場からは、枯れた技術と新しい技術のどちらを使うべきかという質問が出された。

「レガシーの技術をベースとする。毎月のように出てくる新しいプロダクトはとりあえず試す(関氏)」「枯れた技術をチューニングして使う。新しいものも取り入れる(神田氏)」と新しい技術は必要なものの、やはり基本となるのは世間に定着している安定したプロダクトのようだ。また、久森氏は、「自分たちの要件にあっていて使いこなせるかが重要で、枯れているか新しいかは関係ない。結果としてノウハウの溜まっている古いプロダクトを使うことになるだけ(久森氏)」とも話した。

広告を見ているオーディエンスのデータをどう保存すべきかについては、登壇者全員がKVSなど保存技術を選定している段階であると解答。Tokyo、Tyrant、Riak、Redis、Redshiftなど名前が上がったが、アドテクで扱う大量のデータの運用に対する決定打となるプロダクトはまだ無いようだ。膨大なデータとむき合う必要のあるアドテクの難しさについて垣間見える結果となった。

日本発の技術を産み出すチャンスがある

最後に、登壇者が考えるアドテクの未来についてそれぞれに思いを語って頂いた。

それぞれ、「ここにいるメンバーが居なければアドテクは10年は遅れていた、と言われるようになりたい(関氏)」「アドテクは日本発のプロダクトを海外に輸出できるチャンスのある領域(神田氏)」「DMP(datamanagement platform。オーディエンスデータを管理する枠組み)事業、海外事業共に進めている状態であり、アドテクは今後の発展にも期待できる(久森氏)」とアドテクはまだまだこれからも伸びていく分野であることが伺えるコメントが相次いだ。最後に、モデレータの菅原氏は、「海外でも日本でも成長過程にある業界で、エンジニアが牽引している(菅原氏)」とアドテクにおけるエンジニアの役割について強調する形でイベントを締めくくった。

予定時間をオーバーしたのにも関わらず、参加者は最後まで興味深く話を聞いていたようだ。Twitterで振り返っても、もっとアドテクについて知りたいというような好意的な反応が多かったように思える。様々な技術が交錯するアドテク業界。腕に自信のあるエンジニアはこの群雄割拠を勝ち残り、日本から世界の頂点を目指してみるのはいかがだろうか。

著者プロフィール

本間雅洋

北海道苫小牧市出身のプログラマー。好みの言語はPerlやPython、Haskellなど。在学中は数学を専攻しており、今でも余暇には数学を嗜む。現在はFreakOutに在籍し、自社システムの開発に注力している。

共訳書に「実用Git」(オライリー・ジャパン)、共著書に「FFmpegで作る動画共有サイト」(毎日コミュニケーションズ)がある。