お台場にいまほど多くの人が訪れなかった1996年当時、海沿いに現れたのはこれまで見たことのない、ひときわ目を引く建物でした。格子状の構造と球体の組み合わせが印象的なそのカタチについて、株式会社フジテレビジョン 広報局にお話をうかがいました。

フジテレビ本社ビル

――フジテレビ本社ビルの概要について教えてください。

高さ123.45メートル(地上25階、地下2階)の建物で、正式名称は「FCGビル」といいます。1993年4月から1996年6月にかけて工事が行われ、(当時フジテレビの本社があった)新宿区河田町から移転しました。

――設計者について教えてください。

国外で活躍する日本人建築家の先駆けであり、「世界のタンゲ」と称された丹下健三氏です。FCGビルは後期の代表的な作品となっています。

――丹下氏が直接指揮をとった最後の建築とも言われていますね。また、幅12メートル、長さ100メートルという圧巻の大階段、外のチューブ状のエスカレーターなど、印象的なデザインが目を引きます。メタリックな素材と、球体が組み込まれたオブジェのような造形が彫刻のようですが、このカタチに込められたコンセプトなどはありますか?

お台場のシンボルとなるようなデザインであることと、外部と内部の空間が一体化された"開かれたテレビ局"になることを目指しました。

季節ごとにイベントやイルミネーションなども開催され、さまざまな景観を作り出す大階段とスケルトンのエスカレーター

球体部分が他の部分よりも輝いて見えるのは、形状だけでなく素材の違いも

――コンセプト通り、デザインはもちろん、観光スポットとしてもお台場のシンボルになっていますね。ところで、展望室として一般に開放されている「球体」部分(球体展望室「はちたま」)の大きさはどのくらいですか? そして、球体にはどのような素材が使われているのでしょうか?

直径が32メートル、重量は1,200トンにもなり、外側には3,200枚の「チタン」パネルが貼り込まれています。チタンは耐候性に優れているので潮風にも強いですし、比重が鋼の60%と軽いこと、線膨張率も小さい(アルミの約3分の1)ことなどから、メンテナンスの面でも優れています。一方、社屋全体の直線的な部分には「アルミ」素材が使われており、その微妙な質感の違いで、より球体部分のシンボル性を強調しています。

――素材の選び方にも設計者のこだわりが感じられます。それでは、球体内部の特徴についても教えてください。

"どこでも放送局"を想定したこのビルは、各所に電源や連絡端子盤などの放送用設備を準備していますが、球体内部にもスタジオ機能(照明・ブラインド・副調整室)を備えています。ドームの天井は、音を吸収する「吸音天井」と音を拡散させるための「拡散天井」を設けてある二重構造で、デザイン的にも美しくなるように、拡散天井は720枚にもおよぶアルミパネルを格子状に組んでいます。

ホールのような球体内部

――そのほかに、この造形ならではのエピソードがあれば教えてください。

建設当時のエピソードですが、1,200トンもの球体は7階の空中庭園で組み立てられ、毎時5,086ミリメートルずつ、9時間半をかけて25階に設置しました。「重心のずれた非対称形の揚体(吊り荷)を、3カ所の吊点でリフトアップする」というのは、世界でも初めての試みでした。

――見た目も、そして工法から見ても、やはり前例のないエピソードばかりですね。最後に、フジテレビ本社ビルを毎日見ている広報さんが一番好きな"表情"を教えてください。

球体展望室からはレインボーブリッジ越しの東京タワーや東京スカイツリー、富士山など、東京らしい景色が270度パノラマで一望できます。また、夜にレインボーブリッジから見る東京湾越しの社屋がとても綺麗です。どちらも海を感じる表情です。

球体展望室から眺めるお台場の景色。観光スポットとしての実力もさすが

――ありがとうございました。

メタリックで斬新なデザインの外観とは裏腹に、多くの人に開かれたフレンドリーな空間を目指した、フジテレビ本社ビル。完成から17年もの歳月が経過したいまも、未来的な佇まいでお台場のシンボルとなっています。ぜひ、目近でその素材感を確かめてみてください。