モバイルの登場・普及によってWeb技術の真価が問われている

続いて登壇したのは、GoogleでChromeの開発チームに所属する及川卓也氏だ。同氏は、html5j発起人の一人でもある。

Google Chrome開発チームの及川卓也氏

「そこかしこでHTML5という言葉を聞くようになり、いわゆるWebだけでないところで広がっているのを感じています。深くという点では、HTML5がバズワードとして扱われていたころに比べて、実際に使われるようになったことを、皆さんも感じていると思います」

及川氏はそう述べて、白石氏とも共感し、「深まり、広がるWeb技術」をテーマで語ることにしたという。

ところで同氏が開発を進めるGoogle Chromeは、2013年春、レンダリングエンジンを「WebKit」からオープンソースの「Blink」に乗り換えた。及川氏は、サンフランシスコで開催されたBlinkコントリビュータ会議について触れ、次のように語った。

「参加して驚いたのが、ほんとうにさまざまなエンジニアが各国から参加していました。組み込み系やテレビの開発者など、さまざまな方が参加しており、ここからも『深まり、広がる』ということを感じました」

さらに及川氏は、自身が身近に感じている最新のWeb技術・APIとして、「Web MIDI/Web Audio」「Web RTC」「CSS Writing Modes Mod」などを取り上げた。

「往年の"シンセ少年"がわくわくするようなWebインタフェースで、簡単に音を作ったり組み合わせたりできるようになりました。また数年前には夢の世界であったリアルタイムコミュニケーションが、Webで実現できるようになっています。日本を初め、東アジアなどの文化である縦書も、CSSを用いてWebで表現できるようになりました」

こうした進歩を踏まえて、今後の方向性を考えたとき、及川氏はいくつかのアングルあるとして「機能」「使い勝手」「開発生産性」というキーワードを挙げた。

"機能"は新たしいAPIやスタイルを追加するというもので、まだまだWebで実現できていないことは多く、今後も続いていくだろう。ただし、今後の普及を考えた場合、単にそうした機能があるかないかだけでなく、ユーザーにとって"使い勝手"がよいものでなければならない。そして及川氏が最も重要だとするのが、開発生産性である。

「できるけれども実行するのは非常に大変だというものをなくすことによって、より普及が促進されるでしょう。この点で、私は"Web Components"と"DOM Promises"というものを取り上げます」

及川氏によれば、Web Componentsは「Custom Elements」「Shadow DOM」「HTML Imports」「HTML Templates」という技術で構成されるもので、2012年のカンファレンスではShadow DOMしか実装ができていなかったが、現在ではほかのものもほぼそろいつつあるという。その例として、「webautio-controls」というコンポーネントが公開されており、見た目も重要であるシンセサイザーのインタフェースが、簡単にCustom Elementsとして使えるようになっているとのことだ。

DOM Promisesは、簡単に言えば、JavaScriptにおいて多言語で実現できている「Try - Catch」を実現するものだという。

「こうした技術の背景には、開発者がより簡単に実装できることの必要性が存在します。そのため、今後もますます増えていくでしょう」

最後に及川氏は、モバイル対応の重要性も示唆した。同氏によれば、モバイル対応の済んでいない企業もまだ多いが「ほんとに大丈夫かな」などと感じてしまうという。

「モバイルの利用シーンを分析すると、実はメールや新聞などは、まだPCからのアクセスが多いということがわかります。これは逆に、Webが解決すべきチャレンジが多いというところなのです」

及川氏は、モバイルは単なる"別のデバイス"ではなく、人がコンピューティングを身近に使う際の典型的なもの、Webにとってベンチマークとして考えるべきものだと述べた。

もともとドキュメントアクセスが主だったWebが、アプリケーションのプラットフォームになった。また同時に、当初は横型の画面とキーボード、マウスがある環境で使うものだったのが、モバイルではオリエンテーションが次々に変わり、タッチやボイスといった入力を使うようになった。

「Webという技術がユニバーサルになるために何が必要か。モバイルの登場は、それを考えるきっかけになっています。モバイルではよく、Webなのかネイティブなのかという議論がなされますが、その先にWebが社会に定着する技術になるための課題が隠されており、それを解決することが必要だと感じています」