12月4日に発売されたデータベースソフト「FileMaker 13」。50を超える新機能を搭載したこのソフトのポイントは、これまで以上にデータベースを作りやすくなったこと、iOS機器で使いやすくするためのUIの拡張、そしてHTML5に準拠したWebブラウザ上でソフトと同じ表示、動きを実現できる「WebDirect」などが挙げられる。この記事ではそれらにフォーカスして紹介していこう。

作りやすくなったデータベース

まず新しく追加されたのが「フィールドピッカー」だ。これはウインドウからフィールドを選択して、ドラッグ&ドロップでレイアウトに追加できる機能。これまでレイアウトにフィールドを配置するにはひとつずつフィールドを追加するか、コピーして設定し直す必要があったが、フィールドピッカーを使えば使いたいフィールドを選んでドラッグ&ドロップするだけでOKだ。またフィールドピッカー上で[+]新規フィールドボタンを押してフィールドを追加できる。従来のフィールド定義は「データベースの管理」を開いて作るのが基本で、レイアウトから離れて作業をする必要があった。フィールドピッカーを使えば、レイアウトを見ながら必要なデータベースを追加していくことができる。配置やラベルの位置も自由に設定可能なので、初期レイアウト作りも簡単だ。

フィールドピッカーはツールバーのフィールドピッカーボタンから呼び出す。[+]新規フィールドボタンでここからフィールド作成が可能だ

フィールドピッカーの選択項目を追加するところ

フィールドピッカーからドラッグ&ドロップでフィールドをレイアウトに追加できる。ドラッグオプションを指定すれば並べ方やタイトルも指定可能だ

新規レイアウト追加時にはデバイスに合わせたフォームを追加できる。例えばタッチデバイス用を選べば、最初からiPhone、iPadに最適なレイアウトが追加できる。FileMaker 12から使えるようになったテーマも新たに11種類が追加され、ツールバーから適用できるようになった。またフィールドやボタンの書式設定を設定できる「スタイル」を使うことで、一部を修正するだけで書式などの変更をまとめて行える。

デバイスに合わせたレイアウトフォームを追加可能。表示されたサイズでそのまま作れば指定デバイスに最適なフォームになる

Webページのスタイルシートやワープロソフトのスタイル指定と同じ書式設定を保存して再利用できるスタイル機能

iOSで使いやすいUIが利用可能に

FileMakerはFileMaker GoというiOSアプリを使って、デスクトップで使っているデータベースをそのまま利用できるのもポイントだ。FileMaker 13ではiOS対応部分をさらに強化し、インターフェイス部分に最適化が行われた。前述のタッチデバイス用のフォームもそのひとつだが、ボタンやフィールドをポップアップで表示する「ポップオーバー」表示や、ひとつのフィールドを左右にスワイプで表示する「スライドコントロール」、他にもスワイプジェスチャを使って操作も可能になった。

ボタンをポップアップさせる「ポップオーバー」と複数のオブジェクトをスライドして表示する「スライドコントロール」

FileMaker Go上で表示するとこのような状態。ポップアップでボタンを使ったり、画像をスワイプして表示する

iOS用のキーボードもフィールドに合わせて切り替えが可能になった。さらにこれまで他社製のプラグインを使う必要があったバーコード読み取りが標準機能になり、iOS機器のカメラを使って利用できる。署名フィールドも使えるようになった。

電話番号入力時に電話用キーボードを指定して利用できる

WebDirect

今回の最も大きな変更部分は、FileMakerデータベースをWebブラウザで利用できる「WebDirect」だ。これまでFileMakerのデータベースにWebブラウザからアクセスするには、インスタントWeb機能を利用して簡単な入力ページを利用するか、カスタムWeb公開を使ってWebページをデザインするようにレイアウトを構築する必要があった。WebDirectではそのような手間をかけることなく、デスクトップで作ったデータベースがそのままWebブラウザ上で利用できる。ツールバーなどもそのまま表示されるため、使用感がまったく同じになる。対応するWebブラウザはSafari、Chrome、Internet Exploror。もちろんWindows上でも利用可能だ。

Safariから表示したところ。レイアウトはそのままで、ツールバーも利用できる

Windows 7のChromeから表示。同じ表示でレコードの追加、削除、検索などが可能だ

便利なWebDirectだが、残念なこともある。WebDirectはFileMaker Serverを使って公開される点だ。これまでのインスタントWeb公開機能はFileMakerでも5ユーザーまで使うことができたが、13ではインスタントWeb公開機能は廃止されたため、WebブラウザからFileMakerを使うにはFileMaker Serverが必須になる。決して使い勝手が良いとは言えなかったインスタントWeb機能のユーザーは多くなかったと予想できるが、従来の機能を利用できないのは残念なところだ。またWebDirectの同時アクセスアカウントは有料(標準でServerにアクセスできるのは1アカウントのみ)になり、5アカウント単位で購入する必要がある。「同時」アクセスというところがポイントで、例えば10台のPCからWebDirectで利用する場合、10台に対して5つのアカウントで運用することもできる。10台分のアカウントを持つ必要がないので費用は節約になるところもあるだろう。

パーソナルユースからグループユースへ

以前はパーソナルデータベースという謳い文句で使いやすさを追求してきたFileMakerは、個人事業主、中小企業が使う業務システム、あるいは大企業のグループが使うツールという方向にフォーカスを変えつつあるようだ。基幹システムから必要なデータだけを引き出し、加工して使ったりすることもできるし、部署内で共有したいデータをエクセルから簡単に変換して構築することもできる、つまり「小回りが利くシステム」なのがFileMakerの最大の魅力だ。

聞くところでは販売のメインもボリュームライセンスが多くなっているようで、Serverと一緒に使うのが一般的と考えているようだ。実際、年間ライセンスを使って開発用のFileMaker Pro Advancedを1台、FileMaker Serverと同時アクセスアカウント5つという構成なら、8.67万円/年で運用できるシステムは業務用データベースとしては格安で、FileMaker Pro 2本ちょっとで6アカウント(WebDirect、FileMaker Go共通)が利用できる計算だ。業務の効率化を計るならやはりServerを導入してデータを共有して使いたいところだ。

FileMakerのサイトではボリュームライセンスの簡易計算が可能になっている。年間ライセンスを使えば導入時のコストを大きく下げることができてかなりお得だ

いずれにしろ今回のバージョンアップでさらに使いやすく便利になっていることは間違いない。前回12でフォーマット変更があり、バージョンアップを見送ったユーザーにも積極的に更新をお勧めしたい。FileMaker 13はファイルメーカー社のサイトから試用版のダウンロードリクエストが行えるので、まずはこれを使ってみるのもいいだろう。