海洋研究開発機構(JAMSTEC)は10月14日、東京大学、ジンバブエ・ビンドゥラ理科大学との共同研究により、アフリカ南部の地域社会に大きな影響を及ぼしている近年の地上気温上昇の原因について、過去30年の観測データおよび米国立環境予測センター(NECP)/米国大気研究センター(NCAR)の再解析データを解析したところ、南極上空のオゾンの減少がアフリカ南部で「アンゴラ低気圧」を強化させた結果、この地域の夏季の気温を上昇させていることを明らかにしたと発表した。

成果は、Jビンドゥラ理科大学 地理学科のDesmond Manatsa研究員(東大大学院 新領域創成科学研究科および国際理論物理学センターにも所属)、同・Caxton H.Matarira氏、JAMSTEC 地球環境変動領域 短期気候変動応用予測研究プログラムの森岡優志 JSPS外来研究員、JAMSTEC アプリケーションラボの山形俊男上席研究員、東大大学院 新領域創成科学研究科のSwadhin K.Behera客員教授(JAMSTEC 地球環境変動領域 低緯度域気候変動予測研究チーム チームリーダー(上席研究員)兼任)らの国際共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、日本時間10月14日付けで英科学誌「Nature Geoscience」に掲載された。

近年の地球温暖化は、産業革命以降の温室効果ガスの増加によるものと考えられており、アフリカ南部における地上気温の上昇傾向についても、人為起源による温暖化との関係が調べられている。しかし、気温上昇を生じさせる原因は地球温暖化だけではなく、地域ごとに異なる原因が存在する可能性も考えられているという。例えば、近年の南極におけるオゾン減少の影響により、南半球の大気の循環が変化させられているという報告もなされており、そのためにアフリカ南部の気候にも影響が及んでいることが考えられるとする。

そこで研究チームは今回、過去のデータから南極のオゾンホール面積の変化に着目し、アフリカ南部における夏季の気温上昇を引き起こすメカニズムを調べることにしたというわけだ。まず過去30年の南極のオゾンホール面積とアフリカ南部における地上気温のデータが解析された結果、両者の間には強い相関関係が存在することが判明。

画像1は、1979年から2010年まで10~12月について平均した南極のオゾンホール面積とアフリカ南部における地上気温の平年値からのずれ(振幅)を表したバーグラフだ。オゾンホール面積は青色で、アフリカ南部における地上気温の平年からのずれは赤色のバーで表されている。このグラフによると、1993年頃からオゾンホールは拡大し、アフリカ南部の地上気温も上昇していることがわかる。

画像1。オゾンホール面積と気温上昇の平年からのずれ。値は標準偏差で規格化されている

そこで研究チームは、1993年以降をオゾンホール拡大期、それより以前をオゾンホール縮小期と名付け、両者の期間で大気の循環に違いがないかの調査を行った。その結果、オゾンホール拡大期では、アフリカ南部でアンゴラ低気圧が強化され、北側の熱帯域から暖かい空気がより多く運ばれていることがわかった(画像2の4)。

またこのアンゴラ低気圧の強化は、南大西洋の「セントヘレナ高気圧」が西側に偏り南下すると共に、南インド洋の「マスカリン高気圧」が東側に偏り南下した結果、アフリカ南部が両高気圧の狭間になったことに伴うものだった(画像2の3)。

これらの高気圧の変化には、南半球の中高緯度に存在する大気の変動現象「南半球環状モード」が関係していたのである。なお、南極上空で低(高)気圧性循環、中緯度で高(低)気圧性循環が平年に比べ強く生じる時、正(負)の環状モードが発達するという。

実際に、南極ではオゾンホールの拡大により(画像2の1)、成層圏での紫外線の吸収が減少して、上空の気温が低下していた。これにより、赤道と南極の温度勾配が強まり、偏西風が強化された結果、中緯度には高気圧性の循環が、高緯度では低気圧性の循環が平年に比べ強くなる正の環状モードが現れていたのである(画像2の2)。こうしたプロセスが、アフリカ南部周辺の高気圧の南下を生じさせたと考えられる。なお、オゾンホール縮小期の画像2と同じアフリカ南部の気温低下メカニズムを表したのが、画像3だ。

画像2(左):オゾンホール拡大期におけるアフリカ南部の気温上昇メカニズム。 画像3(右):オゾンホール縮小期におけるアフリカ南部の気温低下メカニズム

この正の環状モードには、成層圏のオゾンの減少と温室効果ガスの増加が関わっていると、これまでに報告されている。この両者がどの程度環状モードに影響を与えるかについては現時点では明らかではないが、今回の研究により、オゾンの減少が正の環状モードを発達させた結果、アンゴラ低気圧が強化されてアフリカ南部で夏季の気温を上昇させていることが明らかになった形だ。

温室効果ガスによる地球温暖化は1年を通して起きているが、南極のオゾンホール面積は南半球の晩春から初夏にかけて最も大きく変化し、そこで生じた大気循環が夏季のアフリカ南部の気候を左右する。アフリカ南部において夏季の地上気温は、農産物の収穫量や蚊を媒体としたマラリアのような感染症の発生数など地域の生活に大きな影響を与えるため、南極のオゾンホールのような季節性のある現象とアフリカ南部の気温上昇との関係について、詳細なメカニズムを明らかにすることが重要だという。

今回の成果から、地域レベルの近年の気候変化について、温暖化のみならず、地域固有の原因も存在する可能性を具体的に示すと共に、今後、南極のオゾンホールの軽減対策が、アフリカ南部の気温上昇を抑える可能性があることを示したものとして、今後の研究の進捗が期待されるとしている。