ここ数年で、その可能性や将来性、"創り出す楽しさ"が注目を集めている3Dプリンタ。筆者も数年前、とあるイベント会場で見掛けた3Dプリンタが創り出した作品を手に取り、「凄い技術があるもんだ。いろんな可能性が見えてくるね」と感じさせてくれたものだが、当時は何千万円というイニシャルコストが普及にはネックとなるのだろうな、と思っていた。だが、昨今の低価格化は凄まじく、パーソナルユースの3Dプリンタであれば、PCと同程度の価格で購入できるようになった。そこで今回は、3Dプリンタブランド「Cube」シリーズを販売している株式会社イグアスの担当者に、昨今の3Dプリンタ状勢についてお話を伺ってきた。

3Dプリンタの技術は約30年前から存在。基本的な仕組みは案外単純!

そもそも、今でこそ広く一般にも認知されはじめた3Dプリンタだが、その歴史は意外と面白い。素材を削り出して形を作っていく方法か、一層一層素材を積み重ねて形を作っていくか、という単純な仕組みで、ほぼすべての3Dプリンタは作られている。現在、低価格化が進んでいるのは積層型であり、その積層方式はセグメント分けされているという。

主に工業製品やプロダクト開発で用いられるSLA(Stereo Lithography Apparatus)は、「光造形」と呼ばれており、実は日本発のテクノロジーなのだという。また、SLAはハイエンド技術であるが故に、非常に精巧かつ滑らかな仕上がり(とはいえ、元となる3Dデータのクオリティにも依るが)、積み重ねていく素材の種類が豊富であるというメリットがあるが、価格が数千万円以上、場合によっては1億円を上回ると非常に高価であること、低出力とは言え、レーザーを用いるため専門スタッフが必要であると敷居も高い。SLA同様に工業製品やプロダクト開発の現場で使用されるハイエンドなものとして、SLS(Selective Laser Sintering)やSLM(Selective Laser Metal)という粉体・粉末造形技術が存在する。

SLAやSLS、SLMで制作された、左からスパナ、リング、携帯ケース

SLA、SLS、SLMが自動車レースで例えばF1、山に例えるならエベレストやモンブランという具合に、専門家がその必要性に応じて使用するツールであるのに対し、その裾野をグッと押し広げる役目を担うのが、今脚光を浴びている「Cube」に代表されるパーソナル3Dプリンタの領域だろう。素材となる樹脂を溶融させて積み重ねていくPJP(Plastic Jet Printing)方式は、仕組みが単純であるが故にコストも低く抑えられる上に、オフィスに置けて100Vの電源でも駆動するという手軽さが魅力的だ。

パーソナル3Dプリンタ「Cube」(左)とサンプル(右)。パーソナル3Dプリンタでも、データさえきちんと作り込んでいればこのクオリティのプロダクトを制作できる

そのほかにも、フルカラーでの立体造形が可能なCJP(Color Jet Printing)やFTI(Film Transfer Image)、MJM(Multi Jet Modeling)などの方式があるが、肝心なのは、目的・用途・コストに応じて最適な方式をチョイスすると良い、とのことだった。

自由な発想をカタチにする。そのツールのひとつとしての3Dプリンタ

価格も含めた3Dプリンタの技術革新によって、確かに立体造形は身近なものになったが、まだまだ課題が多いのも事実。まず、3Dプリンタが活きる環境、つまり、CADや3Dでモデリングされたデータ(.stl)が必要だということ。そして、そういったデータを作成できる人材の育成が普及において重要なファクターになるという。「かつて一般家庭にプリンタが普及したのは、はがき作成ソフトなどの"ブースター(起爆剤)"の存在が大きかったのでは?」との見方があるように、3Dプリンタにおいても活用シーンを含めて「使ってみよう」、「試してみたい」というきっかけとなるソフトが登場し、"より高みを目指そう!"という動機付けがまだ弱いのかもしれない。

だが、3Dプリンタの造形技術は、最新の映画制作の現場やNASAでも活用されているのをご存知だろうか。『アイアンマン』では主人公、トニー・スタークが着用するパワードスーツの制作にも採用されたという実績がある。NASAに至っては、SLMを活用してロケットエンジンのインジェクターを制作するなどスケールの大きなプロジェクトもある。技術を習得し、道具として3Dプリンタを活用できる人材になることで、例えば「映画の都ハリウッドで引っ張りだこ!」のようなロールモデルが根付けば普及の後押しになるのではないだろうか。

映画『アイアンマン』トニー・スターク役のロバート・ダウニー・Jr.の手を実際にスキャンし、10セント硬貨(1.35mm)より薄く、柔軟性のある専用のグローブを3Dプリンターで製作したとのこと

さらに、株式会社イグアスの吉澤岳明氏は、「「Cube」に代表されるパーソナル3Dプリンタは"発想の支援ツール"として活用してもらえれば」とコメント。例えば、ルージュなど化粧品の容器造形。思い描いたイメージを、実際に手にとってその感触を確かめられるカタチにすることで、そこから見えてくるもの・感じられるものをフィードバックして改良を加えていく、といった、従来は気軽に行えなかった検証を気軽に行えるようになるのは非常に便利だろう。ほか、仕事のみならず、趣味で自動車やバイク、電車などのモデリングを楽しんでいた人は、オリジナルの造形物を手軽に生み出すことができる喜びを感じられるのではないだろうか。

ものを作る楽しさや喜びを再び身近なものにし、もの作りに対する興味・きっかけを再び与えてくれるであろう、パーソナル3Dプリンタには今後も注目していきたい。