群馬大学(群大)と大阪大学(阪大)は9月2日、がんや糖尿病といった疾患の原因物質に結合し、その働きを阻害する治療薬として期待される「架橋型核酸を含む人工核酸アプタマーの作製法」を確立したと発表した。

同成果は群大理工学研究院 分子化学部門の桒原正靖 准教授によるもの。

血液や体液中にはヌクレアーゼとよばれる種々の核酸分解酵素が存在するため、DNAやRNAなどの核酸は容易に分解されてしまうが、阪大 薬学研究科 付属創薬センターの小比賀聡 教授や今西武 教授らによって開発された架橋型核酸「2',4'-BNA」は、ヌクレアーゼに対する耐性が高いことや細胞毒性が低いことに加え、標的配列を含むDNAやRNAに対して特異的に結合し安定な複合体を形成するため、開発された当初より核酸医薬品の有望な候補として脚光を浴び、現在、アンチセンス核酸やアンチジーン核酸、siRNA、miRNAなど、さまざまな核酸医薬品への応用研究が進められている。

核酸アプタマーの作用メカニズム

しかし、核酸アプタマーは、タンパク質やがん細胞、ウイルスなど、核酸ではないものにも結合し、それらを標的にできるという利点があるものの、標的と結合したときの立体構造が予測できないため分子設計法によって作製することができず、SELEX法(試験管内選択法)のような分子設計を必要としない方法で作製するしか方法がなかった。

SELEX法による人工核酸アプタマーの作製法。工程の改良により、架橋型核酸を含む人工核酸アプタマーの作製が可能となった。架橋型核酸はヌクレアーゼ耐性が高く、細胞毒性が低いなど優れた特性を有するため、核酸医薬品の有望な候補となっている

そのため、これまで核酸アプタマーの作製に向け、SELEX法の改良法が複数考案されてきたが、いずれの方法にも標的に対し結合活性をもつ配列の核酸をポリメラーゼ反応により複製して増やす(増幅する)工程が不可欠であったが、架橋型核酸のように化学修飾基を導入した人工核酸を用いる場合、その反応の効率が低かったり、配列が正しく複製されない頻度が高かったりすることが、SELEX法で人工核酸アプタマーを作製する妨げとなっていた。

SELEX法による核酸アプタマーの作製で重要な工程は、主に、標的に対して特異的に結合する活性配列と標的に結合しない不活性配列の分離、およびポリメラーゼ反応による活性配列の増幅・複製の2つであるが、今回、研究グループでは、ポリメラーゼ反応の効率が低い場合、分離された活性配列に微量しか不活性配列が混入していなくても、ポリメラーゼ反応により、それが増幅されやすければ、結果的に不活性配列が優位に濃縮され、目的とする活性配列が得られないという点から、活性配列と不活性配列の分離を改良が重要であると考え、今回、研究を行ったという。

従来のSELEX法なっでは、固相に固定化された標的と液相中の核酸ライブラリーとの間の結合親和性の違いによって活性配列を分離するが、そうした方法では、少量ながら核酸ライブラリーが固相に非特異吸着することが避けられなかったことから、研究グループでは、活性配列・不活性配列の分離において、固相を用いないキャピラリー・ゾーン電気泳動法に着眼し、これを人工核酸アプタマーのSELEXに応用することを試みた。

今回得られた成果の特徴。従来の分離方法(A)では、ステップ3で不活性配列を完全に除去することが難しいため、ステップ4の活性配列の回収の際、不活性配列の混入が避けられず、活性配列だけを分離する妨げとなっていた。一方、今回得られた成果(B)では、活性配列と標的の複合体が不活性配列よりも先に溶出する(ステップ2)ため、原理上、活性配列の分画に不活性配列が混入しないこととなり、効率的な分離が可能となる

キャピラリー・ゾーン電気泳動法では、標的もライブラリーも液相中に存在し、標的と活性配列との複合体と、標的に結合しない不活性配列とを高度に分離することができるほか、複合体は標的に結合していない核酸よりも先に泳動されるため、原理上、キャピラリーに吸着したものは複合体の分画に含まれることがないため、天然型のDNAライブラリーを用いた場合、従来のSELEX法に比べて5分の1から10分の1の少ないラウンド数で活性配列の分離を完了することができるようになるという。

これを活用したところ、架橋型核酸をプライマー領域に、塩基修飾核酸を非プライマー領域に含むキメラ型修飾DNAライブラリーから、抗体医薬に匹敵する強さの標的結合性能を持つトロンビン結合性人工核酸アプタマー取得することに成功したほか、架橋型核酸が全長にわたって挿入された修飾DNAライブラリーを用いたトロンビン結合性人工核酸アプタマーの作製にも成功したとする。

トロンビン阻害剤は、血液を固まりにくくし血栓ができるのを防ぐ効果があるため、血栓症や塞栓症などの治療や予防に使われており、これらの成果について研究グループは、架橋型核酸を含む人工核酸アプタマーをSELEX法で作製した世界初の例であり、人工核酸アプタマー開発のマイルストーンとして重要なものになると説明している。

なお、研究グループでは今後、今回の成果を基盤技術として、架橋型核酸である2',4'-BNAを高密度に挿入した人工核酸アプタマーや2',4'-BNAよりも分解耐性の高い架橋型核酸を挿入した人工核酸アプタマー、糖部位だけでなく塩基部位やリン酸部位を化学修飾した人工核酸アプタマーの作製法の確立を目指すことで、糖尿病やがん、加齢黄斑変性症などさまざまな疾患の原因物質に対してより強く結合し、かつヌクレアーゼ耐性に優れた人工核酸アプタマーの創製を可能とし、新たなバイオマーカー検出薬や分子標的薬の創製につなげたいとコメントしている。