前回のレポート記事でも述べたように、Windows 8.1のリリースが日々迫っている。我々はWindows 8.1を、Windows 8で指摘された問題点を改善した改良型OS(オペレーティングシステム)と捉えているが、Windows 8.1でサポートする新デバイスの存在は、日常生活を一変させる可能性を秘めていることをご存じだろうか。それは、ここ数カ月は新聞雑誌やテレビの報道でも目にし、耳する3Dプリンターである。

これまで2次元にとどまっていた印刷という作業を3次元に拡充し、ビジネスシーンに大きく影響を与える、と報じられているのはご承知のとおりである。Windows 8.1が、3Dプリンターをネイティブサポートすることは以前のレポートでも紹介したが、Microsoft公式ブログである「Extreme Windows Blog」で、Windows 8.1に関する同デバイスのサポート状況について詳しい記事を公開した。今週はこの記事を元に3DプリンターとWindows 8.1の関係についてレポートする。

ますます脚光を浴びる3Dプリンター

プリンターの歴史をさかのぼれば、熱転写方式やドットインパクト方式の個人用プリンターが普及し、ATM(Adobe Type Manager)やTrueTypeの登場と、インクジェット方式や乾式電子写真方式を採用したレーザープリンターの普及により、用紙に対する印刷環境は大きく進化している。現在ではコンピューター上で作成したデータを、寸分の狂いもなく書類に落とし込むことが可能となり、オフィスや家庭に欠かせない周辺機器の一つに数えられるようになった。

既に普及期を終えた感のあるプリンターだが、その一方で大きな注目を集めているのが3Dプリンターである。3Dデータを基に、プラスチックや金属の粉を層状に重ねて固めることで、立体物を造形するデバイスである。存在自体は目新しいものではなく、一部の専門業種では以前から3Dプリンターが用いられていたが、1台数百万と高額だったため、個人が所有するなど夢のまた夢だった。

この状況が変化し始めたのが2010年あたりから。英バース大学のAdrian Bowyer(エイドリアン・ボーヤー)氏が研究開発してきたRepRapプロジェクトである。商業3Dプリンターを代替えするパーツを生み出すため、2005年頃からプロジェクトがスタート。その研究結果を反映することで、3Dプリンターの低価格化が始まり、Cube 3Dは約15万円。国産3Dプリンター「Blade-1」は直販価格で13万円と手が届く価格帯に降りてきた(図01~02)。

図01 Microsoftのデモンストレーションにも登場した「Cube 3D」

図02 国産の3Dプリンター「Blade-1」(公式サイトより)

手元に3Dプリンターが存在することで、さまざまな造形物を生成し、DIY(Do It Yourself)など我々の生活を一変させる可能性を持つ3Dプリンターは米国やドイツが官民一体の事業として先行し、日本は後塵(こうじん)を拝している。この状況に対して経済産業省は、2014年度予算で民間企業に対する3Dプリンターの開発支援を行う予定だと報じられたのは記憶に新しい。昨日開催されたMicrosoftの開発者向けカンファレンス「Build 2013」で、その3DプリンターをOS(オペレーティングシステム)ベースでサポートすると公式発表した同社だが、同社公式ブログの一つ「Extreme Windows Blog」に掲載した記事では、Windows 8.1における3Dプリンターのサポート状況を改めて説明している(図03)。

図03 Windows 8.1上から3Dオブジェクトを造形中のCube 3D(公式ブログより)

記事を執筆したのは本レポートでもおなじみになった、Windows部門のプログラムマネージャーのGavin Gear(ギャビン・ギア)氏。前述した3Dプリンターの状況を説明しつつ、Windows 8.1で3Dプリンターを気軽に使えることをアピールした。同氏は3D CADアプリケーションなどを持たないユーザーでも3Dプリンターを有効活用できる一例として、3Dデータをクリエイティブ・コモンズベースでSTL(STereoLithography)形式ファイルを公開しているThingiverseを紹介。「ソフトウェア設計ツール(3D CADアプリケーションと思われる)を持っていなくても、オンラインから3Dモデルをダウンロードし、自宅の3Dプリンターで印刷できる」と述べている(図04~05)。

図04 Windows部門のプログラムマネージャーのGavin Gear氏(動画より)

図05 3Dデータの配布を行う「Thingiverse」

さらにGear氏は、最近参加したプロジェクトの中で3D CADアプリケーションの一つである「SolidWorks 2013」と複数の3Dプリンターに触れる機会があり、その中で見つけたSDカードケースに注目したと紹介した。同氏は、このプロジェクトに参加した際に、SDカードをケースに収納する際の引っかかりを残すため、何度か3Dデータを修正しなければならなかったと、試行錯誤した例を紹介しつつ、コンシューマーベースの3Dプリンター活用シーンは成熟に至っていないが、十分刺激的な存在である、と述べている(図06)。

図06 SolidWorks 2013で作成された3Dデータと、3Dプリンターで作成したSDカードケース(公式ブログより)

前述のとおりWindows 8.1はネイティブで3Dプリンターをサポートしているが、Gear氏は3Dデータから造形物を作り出す、3Dプリンターの一般的な造形ワークフローについて説明を行った。順を追って説明すると、始めに任意の3D CADアプリケーションで3Dデータを作成し、次に3Dデータを構成するポリゴンメッシュを見直して、問題や間違いがないかチェックする。ポリゴンメッシュの修正はアプリケーション側である程度最適化され、モデルの出力解像度などを確認した後に3Dプリンターで造形をスタートするというものだ(図07)。

図07 3Dプリンターによる造形のワークフロー(公式ブログより)

ただし、利用する3Dプリンターによってこのワークフローの内部は異なり、一部の3Dデータは造形時のデータに変換する際に失われるケースや、ポリゴンメッシュの見直し時に生成する中間データは一部の3Dプリンターでサポートされないなど、いくつかの不備が発生する可能性があることも述べている。いずれにせよ、我々が普段使っている2Dプリンターと異なり、3Dプリンターはまだ黎明(れいめい)期に差し掛かったに過ぎず、今後さらなる発展と機能的刷新が必要なのは事実のようだ。