1997年12月からサービスを開始したMicrosoftのWebメールサービス「Hotmail」は、機能拡張やブランド名の改称などを経て、2013年5月を持ってサービスを終了。同社の公式ブログである「Outlook Blog」で、HotmailからOutlook.comへの完全移行を発表した。

同社のWebサービス開発に携わってきたDick Craddock(ディック・クラドック)氏は、「3億人におよぶアクティブなHotmailユーザーが使用する150ペタバイトの電子メールデータを、6週間でOutlook.comに移行した」と述べ、移管プロジェクトの成功に興奮していると同記事で語っている。また、別の記事では、Douglas Pearce(ダグラス・ピアース)氏が、Outlook.com上でSkypeによる通話やインスタントメッセージの送受信を可能にすると発表するなど、さまざまな角度から近未来のコンピューター環境を強化する努力を続けている。

だが、現時点で興味深いのはMicrosoft Researchが今年1月に発表した「IllumiRoom(イルミルーム)」の存在である。発表時に説明されていたように4月末からパリで開催されていた「CHI2013」で、IllumiRoomのプロトタイプを発表し、その概要を論文という形で紹介した。今週は次世代のゲーム環境を大きく変える視野拡張システムに注目したレポートをお送りする。

「CHI2013」で発表された「IllumiRoom」の概要

以前のレポート記事で紹介した「IllumiRoom(イルミルーム)」は、Xbox 360もしくは次期Xbox、およびKinect for Xbox 360などを組み合わせた、次世代のプレイ環境といわれている。テレビの周りにある奥行きなど部屋の形状を3Dスキャンし、凹凸や距離を計算した背景や効果をプロジェクター経由で映し出すというものだ。詳細はSIGCHI(Special Interest Group on Computer-Human Interface)がパリで4月27日(現地時間)から6日間開催した「CHI2013」で明らかにするといわれていた。その詳細が見えてきたので、かいつまんで紹介する。

概要はCHI2013のWebサイトよりも、Microsoftの研究機関であるMicrosoft Researchに掲載されたニュース記事の方がわかりやすい。同記事を要約すると、同研究者たちは、HCI(Human-Computer Interaction:人とコンピューター間の相互作用)やNUI(Natural User Interfaces:ナチュラルユーザーインターフェース)に関する情報交換を行ってきたという。また、2つの論文が最優秀論文賞を受賞したことを明らかにした。1つめは「Weighted Graph Comparison Techniques for Brain Connectivity Analysis」。“脳の結合性解析を行うための重み付きグラフ比較技術”という訳すのが正しいか筆者も自信はないので、興味を持たれた方は先のリンクから論文PDFをご覧頂きたい。

そしてもう1つの受賞論文が前述のIllumiRoomである。現在同プロジェクトに参加しているのは、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校からのインターン生であるBrett Jones(ブレット・ジョーンズ)氏。Microsoft Researchの研究者で球面型コンピューター「Sphere」など、HCIを中心に研究しているHrvoje Benko(フルボエ・ベンコー)氏。エクストリームコンピューティンググループに属する同研究所のEyal Ofek(エイアル・オフェック)氏。そして主任研究員のAndrew Wilson(アンドリュー・ウィルソン)氏の4人。

今回は前述のニュース記事とプロジェクトページからリンクされたJones氏の個人サイトで公開された論文画像を元にIllumiRoomを解説するが、そのイメージを端的につかめるのが図01~04だ。IllumiRoomは前述のとおりテレビを取り巻く物理環境を強化するシステムだが、論文の冒頭では図01~04を並べて掲載し、その特徴を視覚的にアピールしている(図01~04)。

図01 Kinectを用いて物理的環境の3Dスキャンを実行(画像はすべてJones氏の画像および動画より)

図02 プロジェクターによりゲームの視野を直接広げる

図03 もしくはゲームシーンの要素をレンダリングする

図04 物理的環境の外観を増強することも可能

現段階では試作機レベルのIllumiRoomだが、プロジェクトチームのビジョンはテレビの前にあるコーヒーテーブルなどにプロジェクターを設置し、デバイスはセカンダリーディスプレイとして次世代ゲームコンソールに、ワイヤレスで接続させるという。この次世代ゲームコンソールは5月22日に発表される予定の次期Xboxになるのは火を見るよりも明らかだ。ウルトラワイドビューを実現するには、超短焦点で映し出せるUltra Short throwプロジェクター、もしくは球体面/精密放物面ミラーを備える汎用的なプロジェクターを想定しているという。また、深さセンサーや構造的ライトスキャナーを用いることで部屋の形状はさほど問わないそうだ(図05~06)。

図05 プロジェクトチームがイメージするIllumiRoomの設置例

図06 現在のIllumiRoomを実現するデバイス環境

IllumiRoomのプロトタイプでは、InFocus IN126STとKinect for Windowsを組み合わせた構成だという。同プロジェクターは739ドル(円/ドル98円換算で約7万2,000円)、Kinect for Windowsは約2万2,000円で販売されていることを踏まえると、10万円近い追加投資を行わなければならないことになる。IllumiRoomがコンシューマーゲーム機器向けに展開することを踏まえると、製品化時の価格設定はある程度割安になると思われるが、高価なデバイスになる可能性は高い。

話を戻そう。Kinectのセンサーはテレビに映し出すシーンの色および形状をキャプチャーし、取得した深度図をシステム側でレンダリングした結果を、プロジェクターで描画。この際テレビとプロジェクターの距離を調整するため、キャリブレーションが必要となるが、内部処理と最初に取得した部屋の形状情報によって自動調整される。論文には内部処理に関しても詳しく説明されているが、冗長になるため割愛することにした。興味を持たれた方は先のリンクにあるPDFをご覧頂きたい。