高画質。それは、X100Sが追求したもうひとつの本質だ。従来機であるX100は、シグマの「DP」シリーズと並んで「大判プリント出力に耐える高画質を強くアピールしたコンパクト機」の先駆けであったと記憶している。その品質は今見てもなお素晴らしい。しかし、X100Sは、この点に最大の革新をもたらした。センサーに新開発の「X-Trance CMOSII」を採用。ローパスフィルターレス構造となったことに加え、画素数が1,620万画素になり(X100は1,230万画素)、解像感が飛躍的に向上した。映像エンジンも新開発の「EXR ProcessorII」で、「点像復元処理」を実現。絞り込み時の回折現象やレンズ周辺の画質低下を補正する。

……と、そういった能書きは話が難しい割に実感が湧かないので、何はともあれ作例をご覧いただきたい。人物の立体感、肌や布の質感、眼球の水晶体の透明感をはじめ、フジならではのフイルムシミュレーションによる色の美しさなどを十分に理解していただけるはずだ。ちなみに、ポートレートは16Mサイズの元画像を掲載したので、興味のある人はダウンロードしてプリントしてみよう。たとえA4やA3サイズでも、X100Sの実力が手に取るようにわかる。

日頃、取材を含めてポートレートを撮る機会が多い筆者だが、その目線でいえば、X100Sは十分すぎるほど"買い"だ。その解像力の高さ、画の柔らかさには心底惚れ惚れする。モデルの魅力を引き出す力は、同じAPS-Cセンサーを持つ一眼レフ以上だろう。悩みどころはレンズが23mm(35mmフィルム換算時:35mm)・F2の固定単焦点という点だが、このレンズがまた素晴らしく、実際に撮影しているとその描写性能に夢中になってしまい、焦点距離が固定されている足枷など完全に忘れてしまうのだ。それに、富士フイルムはX100の記者発表時、「(レンズを交換式にしなかった理由について)固定式の単焦点レンズにすることで、センサーや映像エンジンをレンズにベストマッチさせることができる」とコメントしている。わずか0.5秒の起動時間と撮影間隔、0.01秒のシャッタータイムラグ、撮像面位相差AFの採用により約0.08秒に高速化されたAFなども、まったく無関係ではあるまい。

ところで、いつもなら、やれ高感度撮影時のノイズがどうのと作例と合わせて解説するのだが、今回はあえてそれをしなかった。X100Sの高感度がいただけない、というわけではない。それどころかISO26500まで感度拡張可能で、X-Trance CMOSIIは信号とノイズを効率良く分離する性能を持つ。だが、それ以前に、無理に暗い場所で頑張って撮影すること自体、このカメラにはそぐわない気がしてならない。X100Sは、その高画質を存分に発揮できる環境でシャッターを切りたくなる、より美しい画を追求したくなるカメラなのだ。

余談だが、レビューの機材を返却に、調布の富士フイルムに赴いたときのこと。フジフォトギャラリーの女性スタッフに「どうでしたか? X100Sは」と聞かれ、すごく良かった、欲しくなりましたよ、と即答。すると、「ね、いいですよね。X100よりずっと良くなりましたよね!」の言葉が返ってきた。どうやらX100S、社内でもかなりの高評価のようだ。

絞り優先モードで撮影。絞りはF2.8。内蔵フラッシュを発光させているが調光の具合が良く、肌の白さが非常に良く出ている(原寸大画像を見る)

絞りをF2にして、ぐっと被写界深度を浅く、さらにソフトフォーカスフィルターで甘い写真に仕上げてみた。セルフレームの質感に注目(原寸大画像を見る)

RAWで撮影後、ホワイトバランスを白熱電球にして現像。絞りはF4(原寸大画像を見る)

フイルムシミュレーション「ASTIA」を使用。絞りはF2.8。なお、この画像はカメラのトリミング機能を使ってトリミングしている(原寸大画像を見る)

カートゥーン柄のストッキングがなんとも可愛いが、実寸で表示すると、ストッキングの編み目がしっかりと描写されているのだ!(原寸大画像を見る)

空色のグラデーションが気持ちよく表現されている(原寸大画像を見る)

フイルムシミュレーション「Velvia」(原寸大画像を見る)

構造物の裏側をしっかりと描写しつつ、空には青みが残っているのが驚きだ(原寸大画像を見る ※画像はSサイズモードです)

35mm相当の焦点距離とフジノンレンズの性能が、日常の何気ない風景も作品にしてしまう(原寸大画像を見る ※画像はSサイズモードです)

絞りはF2。開放とは思えないシャープな描写(原寸大画像を見る ※画像はSサイズモードです)

ぜひ、実寸表示で窓の緻密さを見てほしい。レンズは、わずかに樽型に歪んでいるだろうか(原寸大画像を見る ※画像はSサイズモードです)

RAW現像時のフィルムシミュレーション適用プロセス。このほか、RAW現像ではコントラスト、シャドー表現、ホワイトバランスの調整といった要素が生き生きと写真に反映されて非常に楽しい

「Q」ボタンを押して表示されるクイック・メニュー。各設定が一覧できるだけでなく、直接変更も可能

フジフイルムらしくフォトブックアシスト機能もある。が、このカメラには小さなフォトブックより、大判プリントがはるかに似合う

(モデル:高島 奈々)